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[コメント] カッコーの巣の上で(1975/米)

あの婦長(ルイーズ・フレッチャー)のような人を、”マァム”などと呼ぶくらいなら、耳が聞こえなくたって、口がきけなくたっていい。
kazby

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







今思えば、なぜ、あの婦長があの病棟の全権をゆだねられているのか、不自然な気さえする。 あの憎まれ役を、完璧に演じたルイーズ・フレッチャーの頑張りは、今更ながら、尊敬してしまう。 この映画のリバイバル上映を初めて映画館で観たときの驚きと怒りと喜びと、激しい揺さぶりが懐かしい。

薬の時間。私もきっと同じことを聞くだろう。”何の薬?”と。たいがいの病院では、薬の種類と飲み方を丁寧に解説してくれてはいる。 でも、大人になるまで、それを聞く権利があることなど知るはずもなかった。

ミーティングの時間。何の目的で、このような話しをしているのか。本来なら、たずねたって一向に構わないはず。 ここで、話し合われることは、かなりプライベートなことで、大勢で話し合う内容じゃない。人権侵害だ。 野球を観るために日課を変更するかどうかを、話し合うほうがずっと楽しく、効果的。 最初の採決では、婦長の勝ち誇った顔が素晴らしいとしか言いようがないほど憎らしい。 ところが、2度目の採決で、9人が賛成という状況でさえ、有無を言わせないやり方で提案を退けようとしたところは、ぞっとする。

マック(ジャック・ニコルソン)の移送を検討している会議で、婦長は、”彼をどこかよそへやっても、別の人に責任を押し付けるだけです。やりましょう。救えると思います。”という。 うつけ。飼い馴らせると本気で思ってはいなかったはず。でも、彼女のプライドがそんなこと言わせるはずがないし、キャリアに傷がつくのも真っ平だった。

誰もが、はっと息を呑む、チーフ(ウィル・サンプソン)の”サンクス”。マックと同じリアクションを私はする。

このころから、病院では、たががひとつ外れたような、崩れた、何か生まれそうな感じを見せ始めたのだったが。 ところが、マック痛恨の爆眠。きっと、お酒のまわりが意外に早かったか、それとも、規則正しい毎日で、夜更かしに耐えられない体になっていたのか。

キャンディと寝てるところを発見され、婦長に問い詰められながらも、反抗的なビリー(ブラッド・ダーリフ)に、”ママに言うわよ”と切り札で脅かす婦長は、すでに醜い。 ビリーの自殺でほとんど度を失いながらも、平静を保とうと何か口走る。仕事をちゃんとこなそうとがんばってしまう。この人も、すでに病気だと思う。 潔癖症とか、完璧症とか、その類の。

静かな日常を取り戻したように見える病院で、婦長の首のギプスが事件を生々しく思い出させる。そして、彼女は同じ顔で、同じトーンで仕事している。 次にマックが登場したとき、解説なしでは何が起こったのかわからなかった。連れが「ラモーンズが歌ってたろ。あれがロボトミー」と説明した。 1万ボルトの電流が走るほどの衝撃を受けた。こんなことが許されるなんて...。

しかし、あれは、あの病院は、学校そのものだったな。 羽を伸ばそうとしたものは、髪やスカートを切られたり、殴られたり、蹴られたり、親を呼ばれたりで酷い目にあう。 子供のエッジを研磨して吸収しやすくする作業を教師達は淡々とやってのけていた。 並べたときにでこぼこがなくなるようにするためにである。 子供達は次第に飼い馴らされていく。無気力に日課を淡々とこなす、あの、婦長に好かれるような、おとなしい患者になっていく。

たまに変わった人がいる。無気力な生徒達が、学級会かなんかで、自由ってなんだ!みたいな幼い討論をしている(つもりでいる)と、”おい、そんなんやめぇ!学校来たくても来れんやつは、なんぼでもおる!”のようなことを言う。意味はよくわからない。でも、歓迎すべきショック療法だった。家で、親から「弱いもんいじめするんじゃない」なんていわれるのとは違う衝撃。この電撃バップ君のことを、なぜかいつまでもいつまでも忘れられない。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)tredair[*] Santa Monica べーたん m ジャイアント白田[*]

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