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[コメント] 悲情城市(1989/台湾)

短すぎる大河ドラマ、一家族の視線というオブラートに包んだ歴史の勉強では何も伝わらない。特に日本人には何も伝えられない・・・
sawa:38

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







第二次世界大戦で日本人がアジアに残した爪痕は大きく、多少の歴史を知る日本人はアジアを旅したり、アジアの人々と接する時に卑屈にならざるを得ない場合がある。

そんな中で台湾は唯一の安らぎを感じられる「地域」である。50年間に渡る植民地支配に多くの問題があるにも関わらず、彼等は親日的である。歴史的に台湾を辺境の地として持て余してきた清朝が、その地政学的重要度に気が付き本格的な支配を始めてからたった10年で、日本に割譲してしまい台湾県となってしまった。その後、社会整備を急ぐ台湾と内戦に明け暮れる中国本土との格差は拡がり、「大陸」に対しての優越感が生まれる。

台湾現地の「本省人」と大陸からの「外省人」。日本統治時代への憧憬は外省人による無策な支配への裏返しという歪な側面を持っているに過ぎないのだ。

この作品では「228事件」として呼ばれる「本省人」対「外省人」の対立した暴動を核に据えて描いている。だがこれは現在にまで続く台湾人の根源的な問題である。そしてそれはさらに、台湾が独立国家として存続するか、それとも香港のように中国の一地域として帰属するかの世界的問題にまで直接繋がっている。

非情城市』は地方の一家族の生活という視点で、直接的な関わりを避け、どちらの側にも差し障りがないような描き方に終始する。長男が外省人に殺されるのでさえ喧嘩が原因としている次第であった。

現在も両陣営が交わって生きている危うい「国家」での微妙な繊細な問題が故のオブラートだったのだろう。だからこその何の主張もない淡々とした大河ドラマ的な凡作になってしまっている。

しかし、ラストのラストにとんでもない主張をやらかした。大陸で行われていた内戦で毛沢東率いる共産軍に負けた蒋介石の国民党軍が台湾に逃げ込んで来て、台湾の台北に臨時首都を設けるという字幕で本作は終了する。

本作の制作時は未だ国民党が政権を握っていた時期である。たいした度胸である。オランダ・清朝・日本・中国・国民党と次々に登場しては消えていく支配者たちを「最後っ屁」のような字幕だけで痛烈に皮肉っているかのように感じ取れた。歴史に翻弄され、主役でありながら主役になれない現地の「本省人」たちの意地があの字幕だ。

ただ忘れちゃいけないのは、50年間も関わってきた日本は田中角栄が共産中国と国交を結ぶにあたり台湾と国交を断絶し、今もなおその状態が続いているという事実だ。本作を歴史の予備知識無しで鑑賞した日本の観客が、日本語の台詞や赤とんぼの歌に違和感やら動揺を覚えたのなら、少しだけでも良いからその辺りの歴史を勉強してみると面白いと思う。

少なくとも本作のように途中で眠たくなるようなことは無いはずだ。

PS,21世紀中には最後の超大国となったアメリカと中国が必ず覇権を争うだろうと予測する者は多い。そしてその要因となるのが台湾である事も既成の事実だろう。やはり、その時のためにも本作の背景を知っておく必要がある。

(評価:★3)

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