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[コメント] ブラッド・ワーク(2002/米)

これじゃ本当にただのミステリじゃないか。構成が拙過ぎ。原作の美味しいところを繋ぎ合わせただけの脚本を、無意味にフォトジェニックな画面で誤魔化しているだけ。
町田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







マイクル・コナリーは、一冊も読んだことがない。が、この映画を観ただけでも彼の才能の片鱗は容易に窺える。心臓移植、という今日的なテーマへの、文学性、幾つかの多義的なキーワードの絡ませ方、が実に見事だ。

心臓、ではなかったが、『ブラック・ジャック』に角膜移植に纏わるこれと似通った前提を持つ一遍があり、これは大林宣彦監督によって映画化もされているのだが、まず、それを思い出した。

ともかく、キーワードの一、「Heart」である。文字通り臓器としての心臓であり、罪悪感でチクチクと痛む心であり、バレンタインの贈り物であり、そして物語全体にとってのキモ、心臓部であることを示している。

そして、キーワードの二、「conection」だ。一見無関係に見える事件と事件、過去と現在、イーストウッド演じる主人公と彼の提供者(ドナー)となったメキシコ人女性、そして主人公と真犯人の、けして偶然でも気まぐれでもない、揺ぎ無い繋がり。作品にとってこれは、ミステリ的興奮を活性化する大動脈であり、同時に、最も繊細に扱われるべき毛細血管であった。

最期に三、「No One」だ。誰もいない、その中の誰でもない、ということ。本当にどうでもいい、とるに足らない存在、ということ。孤独な現代を生きる上で極めて切実な問題であると同時に、アガサ女史の名作への心憎いラブレターともなっている。

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しかし映画は平凡な出来に終わった。原作に対する「あらすじ全文」みたいな映画になっちまった。それは何故か。

イーストウッドには勿論、判っていた。(脚本のブライアン・ヘルゲランドについては云うまでもない)あの犯人の抱いていた心情(*1)が、ハンニバル・レクターがグラハム刑事に抱いたのと同種のものであるということを。しかし、そんなことは2002年のそのとき、既に誰もが知っていた。それが連続殺人の動機に成り得べきことを殆どの観客はとっくに諒解していたのだ。

だから、衝撃なんてものは受けない。まさか、たかがそんな理由で、などとは露ほども思わない。彼女が射殺された理由など、その事実を知った瞬間から誰もが感付いていたし、ATMで殺された男と救急車の話を聞いた時点で確信へと変わっていたのだ。

それなのに、なぜ、そんなことにもう30分も掛けたのか。イーストウッドはロシア人の男(*1)になど会う必要はなかったし、輸血者カードだって必要じゃなっかった。確信までいかなくてもいい。ピンと来たなら、それを疑いとして、妹や遺児へ対する気まずさとして、どうして描出しなかったか。それを船上でようやく「わっかたぞ」だとぉ。遅すぎるわい、ボケ!

とにかく、このお陰で、後半がどうも大分、はしょられちまった感がある。例えばミスリードとして設置されたATMの第一発見者の男(コンピューター会社勤務)が、早すぎる展開のため全く目的を達成しておらず、結局何者だったのか不明のままだ。

またジェフ・ダニエルズを捉える時に、脛より上しか映さないのが余りに不自然、違和感アリアリで、あれでは「コイツが犯人で、例のシューズを履いています、だから足元は写せません」と、いってしまっているようなもんだ。

嗚呼、イーストウッドは本当に、ミステリの見せ方が下手だなぁ・・・。

そして特に今回は、魅力的な脇役が、全く、一人も、おらん。

イーストウッドのハートもちっとも痛んでそうにない・・・。

つまらんよ、こんな作品。

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*1・・・ジェフ・ダニエルズとイーストウッドの車中での会話のシーンこそがこの映画の最高点であった。彼のことは良く知らないが、素晴らしい役者さんだと思う。(ミステリに於いて演技が素晴らしすぎることは即、ネタベレを意味するのだけれど)彼がイーストウッドの「Conected」のワードを聞いて身震いする様のリアルなこっといったら!

*2・・・彼が社長室に呼ばれるシーンは確かに画的には素晴らしかった。ブラインドから漏れる光を受け、白と黒に染め上げられるロシア人容疑者。

(評価:★3)

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