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[コメント] 黒の試走車(1962/日)

「そこまでやるか!?」という感覚がリストラ世代の現代にもシンクロしていて面白い。
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ありきたりな企業サスペンスとして楽しむこともできるが、男としてのあり方を描くという意味においても、大変複雑な思いで見ることのできた作品。増村作品に必ずといって良いほどの情事も盛り込まれていて、それがこの映画をより華やかにしていると思う。

時はオリンピック前夜。日本が急激な高度経済成長に向かおうとする時勢で、反面世相は戦後から脱却しようとしている頃でもあり、野球で巨人軍が圧倒的な時代を築く頃でもある。

このような時代のこの映画は、その後日本が夢のような成長と悪夢のような失速を経験して今に至るこの光と影のような状況を映し出している。成長前夜の企業戦士。そして企業同士のスパイ合戦など。脇目もふらず突き進もうとする日本のサラリーマンと、このひずみを憂う者の反逆などが、微妙な心理変化などを交えて描いているのである。

今で言えば、自分のクビをかけて常軌を逸脱した仕事ぶりが目立つサラリーマン達にとって悲しくも胸を締め付けられる思いが残るだろう。当時と今では日本全体の経済が大きく異なってしまっているが、いかような時代においてもサラリーマンの置かれている立場には限りがあるということだ。

原作の梶山秀之は企業内暴露や警察官僚などの作品を立て続けに書いた後、晩年は鈴木清順監督が映画化した『カポネ大いに泣く』などを書いている。

増村監督は、この経験から”黒の”シリーズを何本か映画化しているが、この監督の情事的な女の部分を描く傾向と平行して、時代を投影した企業の内部を描く作品も多いことを知る者は少ない。しっかりとした時代感覚を持ち合わせた優れた映画作家であったことは言うまでもない。

(評価:★3)

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