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[コメント] オペラ座の怪人(2004/米=英)

この映画はシャンデリアの落下具合で決まる!
chokobo

まさかなぁ、全編ミュージカル仕立てだとは意外だったなぁ。しかもジョエル・シュマッカーがミュージカルを作るとはね。彼はきっと職人なんだと思う。『セント・エルモズ・ファイアー』も『バットマン』シリーズも、その他の作品にしても、固定おスタッフにこだわらない。そして良い企画には前向きに取り組み、そのカテゴリーやジャンルにも全くこだわらない。この職人気質がこの映画の題材を根底から支えているような気がする。

この題材は古くから何度も繰り返し繰り返しドラマ化され舞台でも何度も上演されている。ミュージカルだから当然なのだが、映画の題材にはなりにくいという側面もある。昨今の映画でこれだけ全編ミュージカル仕立てになっている映画は”ない!”。それは現代の映画がVFXなどを駆使してより創造を現実化できるという傾向によるもので、今さら生の歌声を映画で表現することなどアナログな印象を与えるものと思われるからだろう。現代の科学技術を駆使すれば、どんな映像も作れないものなどない。本作においても然るべくVFXの技術が駆使され、映画の中の時間の経過をとりもっている。この表現も見事だったと思う。しかしながらこの映画の驚くべき点とはミュージカルに徹しているという点であって、VFXが駆使されていることはその一部でしかない。

ミュージカルスターというのは、現代の映画にはほとんど存在しないのだが、MGMを中心とする古き良き時代の大スターはいずれも印象的だった。またそのスターを目指す俳優も多かった。フレッド・アステアジーン・ケリービング・クロスビーなど、歌うスターから踊るスターまで、その技術を見に映画館へ何度も何度も足を運ぶ観客も多かった。良く言われることだが、タップダンスが流行したのは、’30年代の世界恐慌の頃だ。ダウンタウンで仕事もない子ども達が踊り出したのがタップの始まりと言われている。作用反作用の原理ではないが時代が暗ければ暗いほど人々は明るさを求め行動しようとする。つまり不安定な世の中から脱却するための楽しい世界を映画が与えたということ。これは当時の映画が社会に大きく貢献したことの一部でもある。

時代は明らかに当時とは異なる。世界は多いに豊かになり、欲しいものは何でも手に入る時代。そんな時代から過去に遡及し、その華やかな舞台の下で育ったファントムの存在は現代に生きる者と正反対の存在だ。そのファントムの悲しい歴史を映画でこれほど華やかに表現することにどんな意味があるのかと考える。それはきっと過去を忘れてはならいということのささやかな思いなのかもしれない。あるいは豊かになった社会の中でも、時として訪れる孤独をファントムに投影しているのかもしれない。

だからこそこの映画の画面から飛び出すミュージカルスターの劇場に響き渡る歌声は、時として悲しく時として美しく心に響くのではないだろうか。

(評価:★4)

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