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[コメント] スタンド・バイ・ミー(1986/米)

この年代の頃に持つ、社会や大人やそして自己の存在への不安や不満、そんなものがごちゃごちゃになった不安定さがリアルに繊細に映し出されていると思う。大人になった今、やっとこの映画を語るべき言葉を見つけた気がする。
tamic

13歳の冬休みに、ビデオになったばかりのこの映画を見ました。思春期に足を踏み入れつつあった私に、その影響たるやものすごいものでした。

漠然と持っていた大人や社会への不満に免罪符を得たような。温和な優等生だった私は、つたない自我の塊となり、とにかく先生や学校や親に反抗しました。友人たちといつもつるんで、くだらない、でも自分たちにとってはすごく重要な話を一生懸命やったり、ばかみたいな遊びをしたり、泊まりっこしてビールを飲んでみたり。生意気で世間知らずで恋愛も空想止まりで、でも自分ではすっかりいっちょまえの大人になった気分で息巻く至福の時間を過ごしました。

そして映画に魅了されました。私の田舎にも出現しはじめたレンタルビデオ店で映画を見まくったり、電車に乗って県で唯一のミニシアターに幾度となく通ったり、友達とお金を出し合って映画雑誌を買ったり。

そしてリバー・フェニックスという少年俳優に出会い、夢中になりました。「すごいものを見つけた!」という高揚感。「彼はきっとすごい俳優になる!」10代の女の子特有のすごいはまりっぷりで、リバーを追いかけました。でも、アイドルスターと呼ばれることを嫌い、メジャーとインディペンデントの間をふらふらと生き悩んだ彼は、大作にも名作にもクリス以上のはまり役にも出会うことのないまま、23歳でその生涯を閉じてしまいました。大人になりきれないまま死んでしまったリバーを抱えて、私は10代を後にしました。

すっかりとは言えないまでも、私もそこそこ大人になり、子どもを持つ親になりました。多くの映画を見て、これぞ映画!というような素晴らしい作品にも出会えました。でも、完成度とか映画のレベルをこえた次元で「スタンド・バイ・ミー」は私の人生に作用してきました。ゴーディたちの死体探しの旅が外界への第一歩だったように、私には「スタンド・バイ・ミー」そのものが外への扉となりました。13歳のあのときにこの映画と出会えた。こんな幸福な映画との邂逅が人生の中で一度でもあったことをうれしく思います。“墓場に持っていく一本”とも言えない、アカにまみれて自分と渾然一体となってしまっている…「スタンド・バイ・ミー」は私にとってそんな映画です。

(評価:★5)

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