コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 自転車吐息(1990/日)

時は平成
uyo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







年も不惑に近づき、軽く修羅もこなし、安寧な日々の自分。突然、後襟を捕まれて引きずるように10年以上の時を戻された。そこは「昭和」。茶髪がいない時代。怪獣の頭をした奴がワタシにすがって言う。「映画撮ろうよ」

映画?撮らないよ。勘弁してくれ。明日も仕事だし。税金払わないと。それにワタシがやってたのは芝居だよ。製作とか音響とか。小さい劇場借りて。みんなで雑魚寝して。もう今は生活がある。大人なの。シャカイジンとしての分別があるんだ。

だってさ、「牛乳もったいないなあ。酪農家の人達になんだか申し訳ない」とか、「新聞も、上着も、あとでちゃんと拾っておけよ〜」とか、「自転車まだ乗れるのに・・・」とか、「いくら商店街でも、お店の2階や奥の間で寝てる人もいらっしゃるだろうに」とか、ついつい思っちゃうんだよ。オトナだから。でもそれは自分の中に「自分以外の人間」がたくさん存在している証拠だと思うから、残念じゃない。だから生きていてもさみしくないんだ。でも、21才の時の自分は、そんな事、微塵も思わなかっただろうなあ・・・。

それにしても京子はすごい。大学のセンパイと恋はしていたかもしれないけれど、あんなケーキでぐちゃぐちゃの手をした男を追いかけるなんて、圭太の事は愛しているとしか思えない。圭太は実のところは、全然京子を愛せてはいない。自分の事さえ見えない。だから京子にはカメラで圭太を殺す「権利」があったのだろう。

圭太が撮った京子のフィルムは、細野不二彦の「あどりぶシネ倶楽部」を思い出した。漫画といえば、この作品はまるで「おんなのこ物語」の、八角が作った音楽のような感じがする。「俺がこの映画を撮るはずだったのに」と、狂乱した人が、一人はいるのではないかな。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)ALPACA[*] tredair[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。