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[コメント] シルビーの帰郷(1987/カナダ)

古傷がちょっと痛む。でも、その痛みも生き続けていく勇気のスパイス。たとえ、それが今いる場所ではできなくとも。
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ミイさんのキャッチーなコメントを読んで、この映画を観ることにしました。

いやあ、サイマフ・ウォッチャー(そんなもんいるのか?!)ならお気付きでしょうが、僕はアクも強いし我も強いので、子どもの頃からかなり浮いたヤツでした。

毎朝近所の上級生にいびられながら登校してましたし、小三のときに引っ越し、ヤレヤレと思った矢先、今度は同級生から。今から思えば「そら変だわ」と自覚できるのですが、授業中、隣の女の子に膝枕してもらって寝てたり、体育の時間では一人別行動。しまいにゃ、ホームルームの時間に「サイマフ君について考える会」とか開かれちゃって、僕の良いところ悪いところ、皆に一つずつ挙げさせるという吊るし上げにあい、ますます奇行はエスカレート。しかも運悪く、少年野球で活躍してた子に不注意で怪我させてしまったり、クラスで飼うことになった怪我した雀を踏んじまって殺したりと、もう嫌われ者まっしぐらつーか、疫病神道(んなのあるのか?)まっしぐら。でも、学校はめげずに毎日通ったし、空手やってたから師範代に「絶対やり返すな」とお達し受けてたから何をされても動じず(先生来る頃見計らって、泣きまくってやったけど)、だから、苛めてる方は余計に腹立だしかったでしょうねえ。

でも、中学校に入ってからは、そのエキセントリックさがウケるようになって、結構人気者に(ただの勘違いという噂も)。でも、ずっとずっと「変わってる」と言われ続けてきたし、「やっぱ、俺ってどっかヘンなのかも」と真剣に悩んだこともあります。

いや、しょうもないイタイ思い出話を前置きにしてしまいました。

で、この映画です。かなり前に見たんですが、いろんなこと思い出して、イタすぎてしばらくコメントも書けずじまいでした。

粗筋にも書きましたが、この叔母シルビー、僕にはそんなヘンに思えなかった(笑)。ラーティーの演技、と言うか、彼女の目の演技は、ちょっと「イっちゃったあっちの人風」ですが、彼女の言動だって、何がそんなに人から責められなきゃいけないのか、わからなかったし(ただしラストはやりすぎ。映画だからいいけど)。

きっと、そういうタイプの人独特の雰囲気が、周囲をイライラさせちゃうんでしょうね。けれど、彼女なりになんとか周囲と合わせてみたいんだけど、合わせたところで、どっか歯車が狂っちゃう。たとえば、僕の「野球少年傷害事件」とか「雀踏んじゃった事件」とか、友達ができそうなときに、「神様のイタズラ」としか言い様のない、全部ぶち壊してしまうような事件が起こってしまう。そして、どんどん、ますます孤立していく。よく分かります。

僕は、中学高校とたくさん友達もいたし、楽しい思いも切ない思いもいっぱいしてきました(きっと皆さんもそうでしょう)。だけど、どこか、この場所、日本が自分には合わないような「違和感」があって、大学中退してNYに留学しました。それからも、ずっと違和感を持ったまま、シルビーのようにあちこち放浪したし、またいろんな事情も重なって、こうして子ども時代を過ごした場所に「帰郷」しました。それもまたシルビーのように。

今はどうかな。そんなに違和感はないけれど、いつか遠くへ旅立つ気はします。「どっか変なんじゃないかな」ってのも、やっぱりシルビーのように、「ヘンでいいのだ」と割り切ってるところあるし(実は何がヘンか自分でよくわかってない。笑)。これまたシルビーのように、自分自身のこと、この歳になってやっと受け入れられるようになりました。

北米の瑞々しく美しい田舎町と湖の静謐さ(嗚呼スクリーンで観たい!)、それゆえに生まれる閉鎖的雰囲気、その中で、じわりじわりと追い詰められていくシルビーと、彼女にシンパシーを抱き付いた姉妹のうちの一人。きっと周囲は悪意じゃなく善意なんだろうけど、その善意が一番怖いんですよね、僕には(って、オイオイ)。

ラストは、『テ…』を思い出しました。って、オイオイ(汗)、続きはネタバレ追記で。

とにかく、ミイさんの仰るとおり、「アンタってなんかヘンコ!」(「変態!」じゃないッスよ)とか言われたりした青春時代の古傷がある人、淡々とした映画だけに余計にイタいですが、今、こうして元気でやっていること、その大変だった道のりも決して無駄じゃなかったよなあ、と思える(かもしれない)、ジンワリ心に残るいい映画です。

ミイさん、ありがとう。

〔★4.5〕

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以下、ネタバレ追記

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注意:『テルマ&ルイーズ』のネタバレ、『ゴーストワールド』と『ショコラ』のチョッピリネタバレも含みます。

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ラストは『テルマ&ルイーズ』と『ゴーストワールド』を思い出しました。『テルマ〜』のラストは、「あれは自殺なんかじゃなく、僕たちの心に飛び込んできたんだ!」とクサい解釈を友人たちに力説していたオイラ(笑)。この『シルビーの帰郷』のラスト、暗闇に進んでいく二人の前途は、どうなんでしょうね。なんか「お先真っ暗」って感じもしなくも…いやっ!二人には図々しく生きてってもらわにゃ。

あれを「逃げ」だと解釈される方もいらっしゃるでしょうが、僕は、囲い込まれて「殺され」てしまうよりも、断然「逃げるが勝ち!」、逃げた方がいいに決まってると思ってます。

ゴーストワールド』のラストの解釈も一様ではないですが、ああして一人でどっか行ってしまうより、心通わせ一緒に逃げる愛すべき人がいることは、少なくとも、どこか希望がありますよね、うん。

それから『Housekeeping』(家事≒家を守る)という原題、とても意味深いですね。勿論、bunqさんの仰るとおり、周囲となんとかうまくやっていく、housekeepingする「勇気」もかなり骨の折れることですが、一度築いた、housekeepingしてきたものを捨て、別の地に向かうのも相当勇気のいることだと思います。ちょっと『ショコラ』のあの母娘を彷彿しますね。

あっ、もしかして、この物語の続きが『ショコラ』に?だったらいいですよねえ。早くルーシー&シルビーが、心置きなく自分の世界を開けて、みんなじゃなくていいから受け入れてくれる仲間が現れるような地にたどり着けば、いいなあ、うんうん。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)mal tredair[*]

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