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[コメント] ラッチョ・ドローム(1993/仏)

音を楽しむということの全て。
町田

<インド>

インド音楽と云えばなんといっても、「ポヨン」とした柔らかさが夢想を誘う打楽器タブラ(タンブーラ)と復弦楽器シタールの摩訶不思議な響き。赤いターバンを巻いて、白ワイシャツに黒と緑のペイズリーのスカーフを締めた親父が歌う「Kamon Gara Kanhaji」は正に真夏の夜の夢。個人的にはあの、木製しゃもじを二枚合わせた楽器(カスタネット)が欲しくて溜まりません。

<エジプト>

エジプト編に於ける気の効いた設定が僕は好きです。有名バンド「ミュージシャンズ・オブ・ナイル」の室内演奏を楽器を持った少年が高い塀の上から覗いている、というやつです。「ドラ、ドラ、ドラ〜♪」と合唱する「Ya Dorah Shami」の宗教的神秘的な昂揚感は圧巻。中心に立って鳴り物を巻きつけた腰を振るう女性が、演奏終了後に乳児に授乳するシーンも軽い衝撃でしたね。

<トルコ>

街頭で花を売る少女。靴を磨く少年。子供なのにパーカッション巧い…。そして飲み込みが早い・・・。日本人が叶うわけがありません。

<ルーマニア>

緑樹の下でヴァイオリンを弾く(弦を糸で引っ張いたり弓の反対側で弾いたり!面白い!)老人(ex.タラフ・ドゥ・ハイドゥークス)とそれを眺める汚れた少年。サーっつ画面が切り替わって聳えるはチャウシェスク宮殿。(もう一人が弾いていたマリンバの変形みたいなあの楽器は何?)

街に出た老人が仲間達の組む円に加わって始る狂騒的な演奏「Rind De Hore」は映画のハイライトの一つでしょう。とにかく「音楽」を「生演奏」することの醍醐味がこのシーンには満ち溢れています。演奏者の奏でる生音はそれを囲む聴衆の壁に反射し、最高の音響効果と一体感を生む。イコライジング(平均化)された電気演奏ショウなんて犬に食わせろ!と思ってしまった。

<ハンガリー>

ハンガリー往きの電車に乗る少女によって歌われるロマの恨み節。こういう感情を臆面も無く出してしまえるのがトニー・ガトリフの長所でもあり欠点でもあると思う。

もう一曲は『僕のスウィング』の原型とも云える冬の駅でのエピソード。白人の少年が金貨三枚でバンドに演奏を頼む。バンドはお金を戻しサーヴィスで演奏を始める。少年は大喜びで踊りだす。それを観た少年の母親も大喜び。ただしバンドは線路を挟んで向こう側にいる。本当に同化することは出来ないけれど、せめて音楽を通じて愉しい一時を。個人的に一番好きなシーンです。

<スロヴァキア>

左腕に「数字」を刻まれた老婆が切々と歌う「Auschwitz」。説得力在り過ぎです。

<フランス>

ジャンゴ・ラインハルトの正統後継者の呼び名も高い天才ギタリストチャボロ・シュミットがバンド・メンバーを集めるために各地を車で訪問します。ちょっとした『ブルース・ブラザーズ』気分ね。パーティ席上で演奏される「Tchavolo Swing」はリズムといい進行といい、とにかくモロ好みなムードを持つ逸品。(日本でこのテの曲っつーと「嵐を呼ぶ男」になっちゃうんすかね、嫌だなぁ)

<スペイン>

もうフランメンコ。愛と情熱。劇場で激情し思わずハンド・クラップ。

丘から変わり行く町並みを見下ろしながら(溝口健二『武蔵野夫人』を彷彿とさせる)熱唱するのはラ・カイータ。『ベンゴ』でもとりわけ印象的だった彼女はジャニス・ジョプリンと並ぶ世界最高の女性シンガーに違いない。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)moot 東京シャタデーナイト[*] tredair[*]

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