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[コメント] ホワイトアウト(2000/日)

製作陣に作者が入ってしまったため、作者の作風の転換点になってしまった罪深い作品。
ひるあんどん

映画のネタバレはしません。ちょっと違った感想になります。

映画自体の感想としてはなんというか可もなく不可もなく。ケレン味を重要視した作者の当初の目論見どおりに物語が展開できた点はある意味成功だと思いますし、出来る限り原作を読んだ人でも入り込めるようにデリケートに作られた作品だと思います。

しかしそれよりもこの映画に関わってから作者真保裕一の作風がガラリと変わってしまいました。この映画を観たあと、同じ原作者の違う作品を読むと作風の違いに驚くかもしれません。それはこの作品が元々の作者の描きたい世界とは別の側面を持っていること。そして作者自身が意識してこの作品(映画も原作も含めて)のイメージから脱却しようという作者の足掻きに似た努力が作品に反映する様になったからだと思います。

大体この『ホワイトアウト』という小説はある意味作者の幅を広げるための実験作という側面が強い作品でした。(だからか真保さんにしてはディティールが少し甘い)デビュー作から渋めのサスペンス物を出していた作者が「地味すぎる」という編集者の一言に奮起。あえてアリステア・マクリーン風の直球アクションに挑んだのがこの『ホワイトアウト』。そしてこの目論見は見事に成功。その年のミステリー界(このカテゴリーは微妙なんだけど)を席巻する大傑作となりました。

しかしこの成功はある意味作者にとって意外に重い足枷となったようです。その翌年の作品にはあまりそういう雰囲気が現われていませんでしたがこの作品の映画化以降作風が段々と内省化し始めました。(例として山崎まさよしの主演でドラマ化した「奇跡の人」など)

それは多分こういったことがあっただろうと推測します。

自分の本分ではない『ホワイトアウト』の世評の高さに戸惑っているときに、映画化が決定。そして自らも製作に関わり(これは主役織田裕二直々の依頼があったらしい)今まで文字として残っていたイメージが実際の映像として出来ていく過程を見ていくにつれて、自分の作風と完全に乖離してしまった事にどうやら作者は気づいてしまった。

だからそれ以後の作品は「いかにして『ホワイトアウト』から脱却しよう」という作者の焦りみたいなものが感じられ、次第に内省的な側面が強くなった。

ここまでは推測です。ただその作風の転換点がちょうどこの映画の製作・公開時期とぴったり重なるという点はちょっと無視できない気がします。そういう意味でこの作品は実に罪深い気がしてなりません。

(評価:★3)

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