友人に勧められたけど、まるで興味がなかった映画。ビデオまで貸してくれたので、しぶしぶ見始めたものの、それまで派手なアクション映画しか観てこなかった私は、五分と経たずに退屈で半分ウトウトしてしいた。が、湯治場のシーンでそれはやって来た。そう、真っ白なスーツのマストロヤンニが泥のプールに浸かり、御婦人の帽子を拾うその場面に。しかも帽子と一緒に花まで持ってくるではないか！！　なんて気障な！と思いつつも、そのカッコ良さに惚れ惚れした。純白で身を包みながら、自ら泥を被ることも厭わず、心に花を忘れない、そんな粋な主人公に私は完全にノックアウト。あとはもう、ただひたすら主人公と一緒に恋をし、ロシアの大地を巡り、恋のときめきを共有した。そしてあの結末、さらにその先も感じさせる終り方に、映画ってこんなに面白いものだったんだと気づき、巻き戻してもう一度観た。思えばこれが私にとって、真の映画人生の始まりであったという個人的思い入れの強い映画。これを薦めてくれた友人に今も感謝している。

余談だが、その友人もほとんど映画を観なくなってしまい、最近のオススメを聞いたら『亡国のイージス』だった。昔の彼はもういないのかと内心がっかりしていたが、その後私の部屋にあったDVDの中から、彼が取り出したのはこの映画。「これ、いいよね」彼がそう言った時、私の心の中でマストロヤンニが「サバーチカ！」と叫んだような気がした。