かつてユングは普遍的無意識について、アメリカ人を例に出してこんなことを言った。

「処女地」であるアメリカ大陸。そこで暮らすすべてのアメリカ人の心の中にはインディ アンがいる。もしインディアンが追いやられてひとりも見られなくなり、白人がすべての 場所を占領してしまったとしても…。

この映画に即して言えば、さしずめこんなところだろうか。 森を開き、山を削って作った多摩の「造成地」。そこに暮らすすべての人の心の中には、 タヌキが住んでいる。 マンションや住宅が建ちならぶ洒落たニュータウン。そこではもはやタヌキなんか一匹も 見られなくなるかもしれないし、そこで暮らす人たちもタヌキのことなど忘れてしまうか もしれない。それでも彼らはいつの間にか人間の中に入り込み、その心の中に、無意識の 中にひっそりと住んでいるのだ、と……。