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[コメント] マッハ!弐(2008/タイ)

トニー・ジャー、恐ろしい子……。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 端的に言って、私がトニー・ジャーに抱いていた不満はすべてこの作品で解消された。それは、「すんごいアクションには確かにヨダレが出ちゃいますけど、あなたそれじゃただのスタントマンじゃないですか」ということだ。感情表現の乏しいこれまでのトニー・ジャーの立ち振る舞いは、どれだけすごいアクションであっても情動に訴えかける“映画のシーン”ではなかった。

 今作、トニー・ジャーは自ら監督をつとめたという。今までピンゲーオによっぽど抑圧されていたんじゃないかと感じるくらい、人物表現の豊かな“俳優”トニー・ジャーの姿がそこにあった。

 なにしろ、ずっと怒っている。その顔面は終始、張り裂けてしまうのではないかと思うくらいの憎しみに満ちている。ずっと、こんなトニー・ジャーが見たかったんだ。タイの国民性や文化なんて関係ない、“個”の感情を爆発させた主人公が超絶アクションを繰り広げる姿を、ずっと私は待っていたんだ。トニー・ジャーの映画は、いつだって2時間弱に渡って暴力を振るい続ける映画だ。それに見合っただけの恨みつらみが絶対に必要なんだ。

 本作、プロットも決して悪くないけれど、ほとんどトニー・ジャーの顔面と肉体によって支えられているといって間違いはないと思う。「アクションを見せる」という点においてはロングを多用するピンゲーオ演出のほうが動きがわかりやすくていいのかもしれないけど、酔拳や三節棍、それに象との対決(!)など格闘のバリエーションが多く、存分に楽しめたし、試験の場面で「型」の人のあとにラフなマーシャルアーツの使い手が出てくるあたりなんて、彼の「武術とはなんたるや」という思想が垣間見えたようで本当に楽しかった。ひさびさに心の底からわくわくするアクション映画に出会えた。

 それにしても、トニー・ジャーがこんな顔面を隠し持っていたなんて本当に驚きだった。恐ろしい子、ならぬ、恐ろしい“個”を演じきった彼の迫力によって、何だか尻切れなエンディングさえも「こ、これがカルマ……!」と思わず納得してしまったもんね。文句なしで★5です。

(評価:★5)

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