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[コメント] バーン・アフター・リーディング(2008/米=英=仏)

This is USA
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







前作『ノーカントリー』も『ファーゴ』も、いずれの作品も殺意に満ちた作品でありながら、その複雑な内容が観る者を混乱に陥れる面白さを続けてくれますね。コーエン兄弟がまたやってくれました。

この話は全くのパロディでありながら、全く非現実とは言えない不思議さを持っていますね。冗談なのかホントなのか、全く境目がわかりません。

それは「冷戦でCIAも変わった」という誰かの台詞に象徴されていますね。ロシア大使館とCIAだと、それこそかつてのスパイ映画そのものですが、この映画にはそういうクールさなど全くありません。

コーエン兄弟の作品は、特に『ファーゴ』あたりを節目として、かなり充実してきていますね。コーエンタッチが明確になったといえるでしょう。

この作品にも『バートン・フィンク』で見せた壁紙の美しさ、そしてそれがはがれる恐怖。そして家の間取り。ドアと廊下、そしてスクリーンにバランスよく配置される登場人物。

前半にパーティシーンなどは、キューブリックの『アイス・ワイド・シャット』を彷彿とさせる上品さですが、この映画全体は相変わらず下品な内容で、目を覆いたくなるようなお話です。でもそれが笑えるんですね。

コーエン兄弟は完全にアメリカという国を馬鹿にしていますね。

特にこの映画では、敵国を失って、かつて活躍した捜査官をクビにすることで、話が複雑化することを予期できず、数々の殺人が重なりながらも、それを隠そうとする醜い組織としてのCIAをシニカルに表現しています。

もともとCIAの存在など、かつての映画でもあまり明確な位置づけはされてきていないのですが、例えば『コンドル』という映画におけるCIAも、全く意味不明な行動をしていましたね。そんなこれまでのCIA観をモロに暴露しつつ、面白く描いています。

ラストは印象的です。

CIAの長官が数々の報告を聞いてから「まったくどういつもこいつも・・・」と言って報告書(ファイル)を閉じます。そしてそのシーンが地球全体の俯瞰となって、映画は終わります。

その「どいつもこいつも」の中に自分たちが存在することすら理解しようとしないCIAの幹部を痛切に攻撃していますね。とても面白かったですね。

コーエン作品には常に殺意が表現されますね。殺意なくして彼らの作品は語れません。しかし、その殺意のありかたと、国境や環境を越える醜さについては、それぞれの作品でそれぞれ個性的に描かれます。

今回は間違いなくコメディといえる作品でしたが、このどうでもよさが今のアメリカを示しています。エゴの塊のような集団。それは整形手術を受けたいがために、どうでも良い関係が崩れ去る瞬間ですね。

テロに襲われても防御できない環境。それが、この映画が作られた時点のアメリカそのものなんだと思いました。

2009/10/18

(評価:★4)

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