[コメント] ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト(2008/米=英)
映画を見終った人むけのレビューです。
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冒頭のシーンがとてもユニークで面白いですね。マーチン・スコセッシの撮るローリング・ストーンズがこのように表現されて美しかった。面白かったですね。
私がこの映画を高く評価する理由は、概ね以下の通りです。
・撮影直前になって曲目が発表されない事態に直面しあたふたする監督に、ミック・ジャガーが「This is Rock'n Roll」と言うシーン。
・キース・リチャーズほか、メンバー全員の演奏能力が衰えているにもかかわらず、大衆を熱狂させてしまうパワー。
・あけすけに、メンバーが刑務所に収容されたことを語る自由さ。
もうこれだけで、十分ロックとしての存在感を示していますよね。これぞロック。
真面目に考えれば、キース・リチャーズのギターがへたくそだとか、ミック・ジャガーは声が出ていないとか、”音楽”というレッテルの中でこの映画を鑑賞すると苦痛にしかならないでしょう。
クラシック音楽をサントリーホールに聴きに言ってこんなことになっていたら、聴衆は席を立って「金返せ」と叫ぶに違いありません。
でも彼らの存在は、冒頭にクリントン元大統領が母親同伴でこのライブを見に来てメッセージを送るという、彼らが存在しうることだけが、このバンドの持つパワーであることを教えてくれます。
過去のインタビューを交えながら進むこの映画は、彼らが社会的に存在を認められない頃の映像を示しつつ、齢60歳を超えた彼らのパワーをそのまま映し出します。
ロックなんて何でもありさ。
というスタンスがこの映像(映画)の画面から存分に映し出されて、観るものを圧倒します。
ラストシーンでニューヨークの夜景を俯瞰のショットで捉え、その向こうに月が出ています。その月がストーンズのトレードマーク(べろ)に変わって終わることすら、この映画全体で肯定されてしまうという凄みがありましたね。
かつてプログレッシブ・バンドに「YES」というグループがありました。この「YES」というバンド名は、ある意味哲学的で、ある意味全てに肯定的なバンド名ですね。プログレはむしろ規律を重んじ、ローリング・ストーンズのような雑駁でごちゃ混ぜのものとは異なる、むしろクラシック音楽にロックを近づけようとしたムーブメントです。
にもかかわらず「YES」とうバンドがロックの世界で存在し続けることができたのは、全てに肯定的で責任ある存在として君臨したからだと思います。だからローリング・ストーンズの存在も否定されるものではない。ロックはそれほど寛容で「何でもあり」な存在だということなのでしょう。
先日映画館で鑑賞した『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』のタイトルからもそのことが示されます。「THIS IS IT 」。「これっきゃない」という感動は、その存在自体が生み出すもので、誰も否定する余地のないものなんですね。
マーチン・スコセッシは最初からそのことを十分承知の上で、ライブの前後、そして彼らの過去のインタビューを小さく示しながら、この作品を映画としてのコンテンツの押し上げました。
大変素晴らしい作品です。
多くの方がこの映画を肯定的に鑑賞することを望みます。
2010/01/02(自宅)
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