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[コメント] フランドル(2006/仏)

「兵士A」とか「村の女B」とか(レビューはラストに言及)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作は、できる限り現実味を消去したうえで、登場人物の行為のみを丹念に追っていく。レイプし子どもを虐殺する男にしろ、誰にでも股を開き、なぜだか戦場の男たちの苦悶を引き受ける女にしろ、どうしてそのような行動に至るのか彼らの背景や明確な動機が描かれることはない。ここでの登場人物は「兵士A」とか「村の女B」とかいったように、記号化された存在として描写される。

戦場に行く前から捉えどころのないタイプであった主人公の男は、戦場であらゆる非人間的行為に手を染め、あまたの死体を踏みつけかろうじて生き伸びる。戦場でのことは心の奥底にしまって墓場まで持っていくかと思われた男は、神憑り的な糾弾をおこなう女を前にして、罪を告白し彼女への愛を自覚し愛の言葉を発する。あらゆる非人間的行為を踏み台にして、ここにきて初めて人間的行為が登場する。見方によっては勝手極まりないくだりだが、ある意味でそうした帰結こそが(現実味を消去したにもかかわらず)とても現実的な社会描写に映った。(★3.5)

*レイプに直接参加したのは主人公の男であったにもかかわらず(しかも被害女性と目が合ったにもかかわらず)、直接参加していなかった別の男が性器を切断される。現実だったらとんでもない事態だが、フィクションとして受け取るとそこで描かれた「ズレ」がとても印象に残る。戦場の不条理を映し出したという以上に、その「ズレ」の感覚こそが、曖昧な言い方かもしれないが映画的表現のように感じた。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)Yasu[*]

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