[コメント] ヴェンジェンス 報仇(1970/香港)
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「全てが終わったら、どこか遠くへ行こう。」 恋人たちの約束。いちゃいちゃしすぎだよ、と思ってしまうほど続く二人だけのシーン。まっさらな未来を象徴しているかような白いスーツ。黄昏の後に朝日の昇る、ごくふつうの若者の生活。
兄の死に対する報復がさらなる血を呼ぶ。先を読まなければやられてしまう。殺さなければ、殺されてしまう。残酷、非情な手段も厭わない。そこまでしてでもやり遂げなければならない報仇。孝の精神というやつか。
この主人公は迷わない。二つの目的を果たすべく突き進む。だからこそこの迷いのなさが、イチャイチャも、敵の組織の煩雑さも、残酷度も、と全てがインフレを起こすこの展開に強度をつけることになり、それらはラストで混ざり合い、まさに“爆発”する! この映画の成功は偏にその“迷いのなさ”にあると思う。迷いのなさが生み出す物語の爆発力、それが終わった時。爆発が凄まじければ凄まじいほど、あとの静が残す余韻は深い。この作品はそこの所のメリハリがきちんとついている。『さすらいのカウボーイ』でダメなところはそこだもんね。
彼の白いスーツが、血で染まってゆく。まっさらな未来が、浸食されてゆく。痛みを通り越して哀しみを感じるこの描写。そして全てが終わってしまったあとの静けさ。この報仇を終えなければ、個人の未来など無い。しかし、彼はこの血の海を越えることはできなかった。その果てにあるまっさらな未来に到達することはできなかった。前半のいちゃいちゃぶり、回想シーンの幸せぶりを思うとあんまりな運命! チャン・ツェー映画はその残酷さで有名だけれども、それは単に激しいアクションが展開される、というだけではなく、主人公の扱いの非情さ、冷たさにあるのだと思う。その意味で、この作品はチャン・ツェー的な、あまりにチャン・ツェー節の映画だ。
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