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[コメント] 金薬局の娘たち(1963/韓国)

 その血と屍を超えて。
にくじゃが

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 この地に未来はないと父は言った。遠くを見渡し、先を読み、決断を下す厳しき父。母は落ちていく三女を見捨てられなかった。不義をはたらく三女を庇い死んでいった優しき母。どっちが正しかったのだろう。

 次女は都会に行ったことで、広い世界と知識、それに基づく理性を身につけている。映画冒頭で語られる祖先の血は、三女に受け継がれていたという。しかし次女だって、三女と同じ“女”である。彼女もまた、その身に祖先の情熱を受けているのである。彼女はこの地を去ろうとするときようやく気付く。自分がその身には知識だけではなく、祖先の血も宿していることに。彼女は自分が全てを持った新しい人間であることに気付くのである。

 この映画には、様々な対立する要素が描かれている。次女と三女、父と母、知識と迷信、都会と田舎、そして理性と情熱。この平面的二項対立に空間的ふくらみを持たせているのは、長女と四女の存在だ。情熱的でありながらも、男に頼りすぎることなく商売で身を立てていく自立した女である長女。キリスト教という新しい精神を知ってはいても知識はなく、男と対等には見られず服従してしまう四女。

映画のラスト、次女はこの地を捨て戦いを放棄することはしなかった。彼女はこの地に留まった。しかし二項対立を継続するのではない。彼女は受け入れ、包み込んだ。父や姉妹や生きている人々、彼らにすべてを伝えるために。

 ユ・ヒョンモク監督はこの四姉妹の作り出す世界のふくらみをまるく包みこむことで、この物語のすべてを決着づけようとした。韓国映画界で様々な苦難を乗り越えてきたというこの監督、きっと全てを包み込んだ次女のように、やさしく、辛抱強い人なのだろうなと、そんなことを考えた。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)TOMIMORI

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