[コメント] スキージャンプ・ペア 〜Road to TORINO 2006〜(2006/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
船木や次晴だけでなく本物の全日本コーチまで引きずり出したのはたぶん正解だろうし、理論付けにパピコを使うのもアイディアとしては悪くないと思う。
けど、ドキュメンタリー部分における「スキージャンプ・ペア」という競技そのものの設定に対する作りこみが甘すぎです。
原田兄弟が純ジャンプからペアに転じる際のトレーニングをなぜあんなオフザケで撮ってしまうのか。「体力を強化する」という目的がはっきりしたシーンなんだから、ひたすら真剣にトレーニングしておけばいいんです。もともと馬鹿馬鹿しい競技に馬鹿馬鹿しいトレーニングで臨んでしまっては競技そのものがギャグにならないでしょ。
元々現役の競技者だった原田兄弟でさえ1年ものトレーニング期間が必要だったはずの「ペア」にパン屋がいきなり参戦できるのもおかしい。パン屋や他の外国人選手にも「ペア」に順応するためのトレーニングの過酷さを語らせるべき。
また、ヴィドヘルツルの家の前で原田親子が「空サッチ(補助者がジャンパーの腰を支えて行う踏み切りの練習)」してるのに対して現地のニュース番組が「何か祈りを捧げているのでしょうか」とか報道するのもおかしい。ヨーロッパにおけるノルディック競技の地位を考えれば、それがジャンプの練習であることは明らかなはず。
さらに、有人飛行実験でいきなり大倉山シャンツェを使うのも変。実際、危険すぎるはず。北海道には10メートル級からの子供用の低いジャンプ台がいくらでもあるんだから、まずはそこから始めて徐々に距離を伸ばしていくべき。そこまでやって、やっとこさ見る側は「ペアジャンプってホントにあるかも?」と思えるんです。いや、思えやしないんだけど、「ここまでちゃんと作りこんでるんだったら、この映画の設定に乗ってもいいかな」と思えるわけです。
要するに、こういう作品を作る場合「本当にスキージャンプ・ペアという競技が存在したら現実世界においてどういう位置づけになるのか」「人々はそれをどう受け取るのか」ということを徹底的に練らなきゃいけない。リアリティってのはそういう面倒な作業を我慢強く積み重ねることで初めて生まれるもんです。「バカ」をやるからには、もっともっと「バカ」に対して真剣に向き合わなきゃ。
言うまでもなくこのドキュメンタリーのシーンはあのCGへの「つなぎ」なわけで、CGシーンの爆発力を出すためには、それまでに緊張感を徹底的に高めておかなければならなかった。それなのに、その道のりで中途半端に笑わせようとしたり雑なつくりをしてしまったせいで、結果として「スキージャンプ・ペア」そのものの魅力が半減してしまった。「緊張と緩和」という笑いにおける唯一最大の基本が崩れてるわけです。
ちゃんとやればそれなりに良質なB級映画になれる素材だっただけに、作り手の怠慢が残念な作品でした。
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