人が人を殺す理由は、加害者と被害者が入れ替わるたびに増幅して煮詰まってゆく。そして確固たる信念に拠って人を殺した男は自分が死にゆこうとする水際にも理由を求めて「それ」を読もうとする。なんとも空々しい味わいのラストは必然であり、語り手としての腕力を感じる。

　ただ、お話として、主人公が聾唖者である必然性が最後まで見出せなかったのがちょっと惜しいなぁと思う。彼が悪徳業者の罠にかかった原因も、誘拐に及んだ動機も、復讐の徒に捕らえられた理由も、「弱者ゆえ／貧しさゆえ」ではあっても「聾唖者ゆえ」ではない。唯一、溺れる少女の悲鳴を聞き逃すという描写はあったけれど、これは少女を死なせる状況の設定でどうにでも調整できる問題であって、プロットとして主人公が聾唖だったから少女が死んだというわけでもない。

　同様に、その現場の目撃者を小児麻痺の青年としたことにも違和感があって、物語的に障害者が「悲劇の色づけ」効果としてしか機能していないことが気がかりだった。一方でソン・ガンホが生粋の電気屋であるということには殊更こだわっている（手足を縛ったロープも電気コードだった）だけに、彼らの障害そのものが物語から浮いていたように感じました。単純に『天国と地獄』みたいな貧富の構図でもこの物語は語れたのではないかなぁ。倫理的に云々というより、彼らが障害者であることが映画の虚飾に見えてしまう。ここらへんは徹底的に削ぎ落としてほしかった部分ではあった。とはいえ、好みの問題かなぁ。トータルで感想を述べれば、すごい力作と思います。

▼余談

　ペ・ドゥナはもともと好きな女優さんなのだけれど、今作は特に素敵だったです。ぼくもけってけってとおもいました。