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[コメント] 暴力団再武装(1971/日)

実録路線への端境期にあって深作に後れを取りはしたが、こんな凄いハードな演出をしていた佐藤純彌。B級監督と勝手に認定していた認識を全面撤回致します。特にこのラストは何だ!語りつくせぬコノ衝撃!
sawa:38

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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前半部の悪逆非道な鶴田浩二。どうして鶴田がこんな役やる必要があるんだろうと疑念が渦巻いていた。そして中盤、アンコ達の味方として義侠心を発揮し出すに及び、嗚呼やはり任侠映画の定番としての鶴田浩二が必要なのだなぁと思い、安心感とともに退屈感も覚えた。

そしてラスト。お決まりのように「良いヤクザ」の鶴田は「悪いヤクザ」の丹波と近衛に斬りかかっていった。これは「定番」である。任侠映画はこうでなきゃいけない。いつものように「名も無き人々」の声を代弁し、自らの命を代価にして散って逝くのだ。

だがここで全ての常識をひっくり返すラストが用意されていた。近衛を刺し貫き、代弁したはずの「名も無き人々」の方を意識朦朧の鶴田が見る。普通ならここで彼等は鶴田に走り寄り、このヒーローの死に様を看取ってやらねばならない。

・・・驚いた。ここで佐藤純彌は労務者達の強張ったアップを撮ったかと思うと、何と彼等にヒーローであるはずの鶴田に石を投げつけさせた。「お前も暴力団だ!帰れ!」と。

予想していなかった結末にたじろいだ。これまで東映が築き上げてきた任侠を全て否定する結末。「名も無き人々の声を代弁する為のやむを得ぬ暴力」これすら強行に否定する姿にたじろいだ。皮肉にもヘルメットにゲバ棒の労務者達の姿が70年安保の学生達と重なって見えた。すべての暴力・戦争反対なのである。もし、このノリで『七人の侍』をリメイクしたなら、志村喬も加藤大介も農民達に虐殺されてしまうのだろう。

そしてさらにラストのラストで、それ以上の衝撃が用意されていた。四面楚歌の鶴田が腹を掻っ捌き自害してみせたのだ。ここまで任侠スターを貶めるラストが今まであっただろうか?ここで気が付いた。東映任侠映画の引導を描ききる為には「大スター鶴田浩二」が屈辱の中で腹を切るしかなかったのだろうと。

そして最後、警察の呼びかけにも武器を捨てずに意気軒昂な労務者たち。勝ったのは農民達・・じゃない、労務者だった。ヤクザよりも警察よりも強いモノ、それが一般の声無き民だったとは・・・その衝撃に打ちのめされている間にヘリでの空撮俯瞰でカメラがフラフラ昇っていく。嗚呼、見事だ!

(評価:★5)

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