映画『友だちのうちはどこ？』について。　少年は誤って友達のノートを持ち帰り、それを返すために道を行ったり来たりする。このようなシンプルな構成のおかげで、細かい描写ができ、それは物語をふくらませる。　この映画の印象的なシーンをあげてみる。教師は机の下にもぐっている生徒を注意する。その生徒は「背中が痛いんです」と言い逃れをし、次の日、宿題をしない理由に背中の痛みを訴える。教師は「背中が痛かった？今はいいのかい？」と聞く。優しい人ではない。宿題をしないと怒り、宿題をしてきてもノートでなく紙切れだと破り捨てる。だが背中のいい訳は気にしない。子供にとって大人の気まぐれは本当に怖いものだ。主人公の少年に対しても、少年の母親は返事をせず、声が小さいものなら聞こえない振りをし、伝わったなら宿題をしろと叱る。対話のズレを逃さずに描くと、限りなく現実に近いものとなる。素朴な題材が、生々しいスリリングな映画になる。　撮影現場のエピソードもそれだろう。素人の子供がキャメラに慣れるために、撮影の数日前から教室にキャメラを置く。また威圧感を与えないように、監督は人づてに演技指導を行う。メジャー映画では考えられないが、この映画、イランができる手作りのやり方だ。この国は表現自由がなく、制約された中で模索した。そして独自の映画表現を見つけた。