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[あらすじ] シチリア!(1998/仏=伊)

端的には,母を訪ね15年ぶりに帰省する男の,故郷シチリアでの会話劇である.が,強烈に個性的な登場人物,旋律的な抑揚と休止を交えた台詞回し,厳格なショット構成と編集に,観る者は,世界の潜在的な豊かさと危うさを発見する.かもしれない,美しく,滑稽で,恐ろしい,無類の66分.本作は監督夫妻の第二十一作であり,ヴィットリーニ三部作の第一部をなす.[35mm/B&W/1:1.37]
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シチリア生まれのエリオ・ヴィットリーニ(1908-1966)によって創作された小説「シチリアでの会話」[1,2,3]の映画化を監督夫妻が思い立ったのは,1971年頃,ストローブがユイレとはじめてシチリアに行ったときに,価格操作のために捨てられた山積みのオレンジを見たのがきっかけ[4],だそうで,実際,本作は,食いつめたオレンジ売りとの会話に始まる.

「シチリアでの会話」は,1939年当時,ファシスト政権によって発禁処分を受けつつも,地下出版を通じて密かに広く読みつがれ,来るべきレジスタンスの精神的基盤を民衆の間に築き上げた,ネオレアリズモ文学の原点とされている.そんな闘争的な原作の故か,出演者は皆,その大半が共産主義者というトスカーナ地方の山岳地帯の村ブーティに住むシチリア出身者である.(住人は『雲から抵抗へ』や『労働者たち、農民たち』でも起用されている.)

本作には,監督夫妻の習慣に従い,三つの版がある.本作をお気に召した方は,幸いにも,フレノワ版と呼ばれる第三版を編集する夫妻を,ペドロ・コスタが記録したドキュメンタリー『映画作家ストローブ=ユイレ あなたの微笑みはどこに隠れたの?』に観ることができる.

なお,本作全体を包み込む開幕と閉幕の音楽は,ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第15番 作品132,第2楽章 <アレグロ・マ・ノン・トロッポ> 1-22小節と第3楽章 <モルト・アダージョ> 162-210小節であり,エンドクレジットの写真の人物はエリオ・ヴィットリーニである.また,冒頭で述べた「ヴィットリーニ三部作」は,本作と『労働者たち、農民たち』,『放蕩息子の帰還/辱められた人たち』からなる.

このあらすじは主にパンフレット[5]を参考にまとめました.

参考文献

[1] Elio Vittorini, Conversazione in Sicilia, 1937-1938(邦訳は[2,3]).

[2] 清水三郎治(訳),シシリー島の憂鬱,文芸春秋社,1953(絶版).

[3] 鷲平京子(訳),シチリアでの会話,岩波書店,2005(119ページにもおよぶ,訳者による「解読」がある).

[4] フランス・カイエ no.538, http://boid.pobox.ne.jp/cahiers/cahiers2/no538.htm.

[5] シチリア! ひどすぎる、世界を侮辱するなんて,細川晋(編集),アテネ・フランセ文化センター(監修/発行),2000.

(評価:★5)

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