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[コメント] デイ・アフター・トゥモロー(2004/米)

監督、天変地異だけで絶望的にさせるには、まだまだ工夫が必要ですよ。
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 日本におけるパニック・スペクタクルの最高峰(だと信じている)『日本沈没』において、クライマックスとなる場面は当然のことだが日本が沈むところである。ところが『日本〜』は約140分という尺の中で、観ている側を徹底的に絶望に追い込ませる場面を前半終了直前に持ってきている。“東京大震災”だ。死者・行方不明者300万人という甚大な犠牲を払いながらも、まだ話は終わっていないという点がミソで、これですらまだ“日本沈没”に至る前奏曲に過ぎない。最終的に日本という国そのものが「亡くな」り、世界を彷徨わざるを得なくなった日本民族の中で、互いに愛を誓い合いながらも別離した者達が、その世界のどこかで行き続けている……。これが『日本沈没』という映画のポイントなのだ。

 では本作はどうなのか? ビジュアルや話の展開に関していえば、エメリッヒは絶望的な状況に追い落とすというのが実に上手い。こんなのはお手芸だとばかり、次々と超絶的な自然災害を起こしまくり、前半60分であっという間に北半球を氷付けにしてしまった。この辺は、昨今にあるような凡百の気象災害映画を簡単に蹴散らせるぐらいのインパクトがある。ところがそういった自然災害大パニックは前半で終了し、後は凍て付いたアメリカの大地で親父が息子を探し、一方の息子は彼女と一緒にサバイバルをする。その他にもいろいろエピソード(大統領が死ぬとか)があるが、結局筋となる話はそこに収束されてしまう。徹底的に絶望的なシチュエーションを持ち出しておきながら、最後は妙に希望めいた展開になってしまうのだ。この辺は『日本沈没』と実に対照的である。

 だが、この展開に幻滅したかというとそうでもなく、後半の展開から考えればそうなって当然かとも思える。そもそもエメリッヒが本作で作り上げた追い落としは「北半球が氷付けになる」というのが最終結果であり、それ以上パニックが進むことは絶対に無い。これを先の『日本沈没』で例えてみると、前半で日本が完全に沈んでしまい、後半では世界中で難民となった日本人達の苦悩を延々と描くという展開になる。そうなってくるとラストは“それでも日本人は一民族として力強く生きる”とか“離れ離れになっていた男女がついに出会う”というような展開になる可能性が高くなるはずだ(意外性を狙うならもっと別の展開になることも否定出来ないが)。

 つまり破滅絵図のラストをどこに持ってくるかで、話の展開はこうも変わってしまう。そしてエメリッヒはやはり希望的なラストの方がいいと思ったのか、本作のように話半ばで「絶望への追い落とし」を止めてしまったのだ。これでは「物足りない」「尻すぼみ」と思う人がいても仕方が無いが、かといって北半球が氷付けになるまでをラストまで描いたとしても、それが日本沈没以上の絶望になるかというと疑問だ。むしろ、気象が大々的に変化するというレベルのパニックであれば、絶望的に出来る度合いもこの辺が関の山なのではないか。火山噴火や竜巻だけではここまでいかないだろうし、ああまでの展開を重ねてようやく出来上がった状況なのだから、それ以上落とすことは出来ないのだ、と考えれば一応は納得出来る(あくまでも個人的にですが)。

 少なくとも、一連のエメリッヒ作品の中では珍しくマトモな映画だ。だが、最後まで絶望的な状況に追い込ませる映画を作る日まで、★5はとっておこう。

(評価:★4)

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