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[コメント] ウィークエンド(1967/仏=伊)

ゴダールに必死についていこうとするのはたいへんバカらしいことだ。
バーボンボンバー

ウィークエンド』は1967年の作品で、ゴダールのヌーヴェル・ヴァーグ作品の最終作であるなどと言われているフィルムである。

劇中で多用される数々のタイポグラフィは、多くがジョークとして使われていたように感じた。<分析>というタイトルではワイシャツ姿の男性が下着姿の女性に淫行の様子を聞きだしているだけであったり、<パリの日常風景>というタイトルではインディアンの服装の子供が、車を発進させようとする男の邪魔をして怒られ、その子が母親を呼ぶと母親が出てきて、その車に向かってテニスボールを打ちつけて攻撃をして、子供は「バカヤロウ、クソッタレコミュニスト」と叫ぶ、という内容であったりして、了いには<つなぎ間違い>というタイポグラフィがチカチカ出てきたりする。それらの映像には制作者の隠された意図があるのだろうが、ブラック・ユーモアに溢れた内容でもあった。

しかし、さすがゴダールということを感じたのは、芸術的・記号的な映像の数々や前衛的な音楽の使用、文学の引用などであった。浴室に入っている裸の女性を肩から上だけ映しているショットではその上に上半身裸の女性を描いた絵画が掛かっていたり、女性と男性の会話のショットでは人物が青々と繁った木と木の間に立っていたりして、その記号的な映像に感服した。ロートレアモン伯爵の『マルドロールの歌』を激しいドラムスをバックにラップ調で朗読するシーンは震えがきた。そして、なんといってもこのフィルムの最大の見せ場は渋滞のシーンではないだろうか。延々と続く渋滞。その中には人間だけでなく、猿、馬、ライオンまでもがいる。チェスをしている人もいれば、カードゲームをしている人もいて、車の上でキャッチボールをしている人までもがいる。渋滞は全く動かないようで、道から逸れて野原に寝そべって読書をしている人もいるし、なぜか潰れてしまっている車もある。主人公たちの車が進むのと平行にカメラが進んでいるのだが、時に車が止まってしまったりしてカメラだけが先に行ってしまったりする。しかし、カメラは車が追いつくのを待っていて、車が追いつくとすぐに同じスピードになって平行に進む。この撮影はレール撮影なのだろうか。映画の「おもしろさ」を如実に体験できるシーンであった。

しかし、この作品を見て感じたのは、ゴダール(の自己満足)に必死についていこうとするのはたいへんにバカらしいことなのだということである。「もうゴダールはいいや」と思ってさえしまう。

付け足し:

最近溝口作品をたくさん見てからこれをまた見直したら判ったのですが、『ウィークエンド』はほぼ全編に渡って溝口へのオマージュがちりばめられています。渋滞シーンのトラッキング・ショット、森のシーンのフレーミング、暴力描写、水の使い方、溝口を意識してい無いと云ったら嘘になる映像です。極め付けは「PLUVIOSE−雨月」というタイポグラフィで、その後の舟が岸に着くショットは『雨月物語』そのものなのです。

(評価:★3)

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