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[コメント] 近松物語(1954/日)

恋と官能とロマンスの王国 そしてそこに君臨する女王が二人?
ボイス母

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







恋の喜びに震え命を投げ出す男女の姿が崇高なまでに美しく描かれている。 その画面、衣装、所作の美しさの数々。どれをとっても一級の美術品!

長谷川一夫の魅力というのがこの映画を観る、今の今まで気がつかなかったが、彼の魅力はマサニ「女優の魅力」なのだ。 そのなよやかさ、しとやかさ。冷たい肌の下に押し隠された情熱。これはマッタク、女優の魅力満開状態!?

「おさんを連れに参りました」と言うときの長谷川一夫の美しいこと! 香川京子でなくとも彼の前にこの身を投げ出して「連れて行って!」と涙目で懇願してしまいそうになる。

ラスト、自分の恋を貫くと同時に、強欲でヒヒジジイな自分の夫&夫が命よりも大切にしていた店もろとも道連れに自滅してゆくヒロインの姿は、この世の恨みも垢も全て洗い流された、清々しいまでの勝利の微笑みに満たされている。 彼女こそがこの王国の統治者であり、勝利者なのだ。 そして、その背中合わせに縛られた男。実はこの王国のモウ一人の女王である。 決して「王様」ではナイところがミソ。 この「恋と官能とロマンスの王国」を理解するのに、むくつけき男はマッタク必要とされないのだ!だからこそ、長谷川一夫でなければならない!!

この「恋と官能とロマンス」が全ての行動規範でありモラルである王国に於いては「現実の意味での男は不要だから」である。 恋の喜びも理解せぬ無粋な日本の男はお呼びでないのだ、この王国では。 「記号としての(理想の)男」そんな次元を超越した存在を演じきれる役者が今の日本にいるだろうか? 居るとすれば、タカラヅカの男役?

話が逸れた。 言いたかったのはつまり、ラスト、背中合わせに縛られて刑場へ送られる二人であるが、その手はシッカリと繋がれているのだ。 二人の決意が見とれて感動的である。 しかし、全てを濯いだ後のようなサッパリとした香川京子の表情に比べると、長谷川一夫の表情は「ちょっ、こんな筈ではなかったのに」的一瞬の曇りが伺えてなんとも味わい深い。 コレが両者ともスッキリ&サッパリ&堂々であれば、全くのタカラヅカになってしまうトコロであった。 この一瞬の表情の曇りにより、この物語は「男としての生き方にチョットだけ後悔してみせる主人公」を匂わせていて、よりリアルなモノに仕上がったのだと思う。 まるっきり「架空の存在」としての男というダケではなく、「実は罪人にもなりたくなかったし、ホントは出世もしてみたかった男」というより現実的なニュアンスを引き出せているのだと思える。 う〜む、やはり希有な俳優だぜ>長谷川一夫!!

(評価:★5)

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