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[コメント] 二十才の微熱(1992/日)

優しい残酷
Linus

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







窒息しそうな映画である。見て楽しめる物語じゃ全然…ナイ。

主人公の青年は言う。“自分の苦しさなんて、他人に言ってどーすんの? わかってもらおーとしてどーすんの?”まったく同感。他人を理解することなんてできっこないし、(努めることは大事と思うけど)自分の自意識なんて、自分で処理するしかない。 けど、見ている間中、シンクロしちゃうってどーいうわけだろ。 (いや、わかってるんです。誰かor何かに依存したい気持ちが一方には あることを)

イジメルわけじゃなく、悪意をぶつけるわけでもなく、 優しいんだけど残酷な人っていますよね。こっちにとっては、 低温やけどみたいな存在。何をされたわけでもないけど、 嫌な目にあわされる。好きになってくれないんなら、 いっそ嫌いになって欲しい! と言いたいんだけど口にはできない。 (あくまでも過去形です)

そーいう経験が、橋口テイストなのかな? 私は、この監督からナルシズムを感じない。 苦味のある優しさに溢れてると思う。言ってみれば、優しさだけじゃ ないトコが琴線に触れるんでしょー。 優しいだけの世界なんてありえないし。 人間なんて、イジワルと優しさをあわせ持つ生き物だし。 だから「♪いいな。いいな。人間っていいな」なんじゃないのかな。 反対に言えば、それでも「♪いいな。いいな。人間っていいな」と 歌えるか? なのかもしれない。

しかし公開当時観た時は気づかなかったけど、ラストの買春する男って 橋口監督本人だったんですね。橋口監督の、それまでの人生を吐露 してるようで、物凄いリアルを感じました。

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(追記)

無粋と思いつつも、袴田くん演ずる青年の心理を、私なりに解釈したいと 思います。

すべての子供に備わった、この原初的な自己肯定感を傷つける大人の 態度は、そこに暴力があろうとなかろうと、子供に対する虐待である。 ・・・情緒的虐待の中には親から「お前は醜い」「役立たずだ」「馬鹿 な子だ」などと言われ続けてきたという場合が少なくないが、 もっと多いのは「お前がいさえしなければ、離婚できるのに」「お前の ために私は我慢しているんだ」といった言葉である。・・・親からもらう 誤ったメッセージにはいろいろあるが、代表的なものは「親の不幸は 私のせいだ」というものである。・・・「お母さんの不幸」も自分の せい。「良い子でない私は捨てられる」という信念もある。こんな信念を もっていれば自分の感情を率直に表現できない。表現を封じられた感情は やがて鈍麻し、生きる喜びも一緒に消えてしまう。こんな子供たちは 「感じない・信じない・しゃべらない」という生活技術を身につけた、 一見温和で柔順な大人になるのだが、こうした人は自分も他人も 信じられないという緊張と寂しさにいつもつきまとわれている。 (『子供の愛し方がわからない親たち』斉藤学著)

この映画の青年の両親が離婚しているということは、青年と父との 電話での会話でわかる。青年のバックグラウンドを考え、参考文献を 踏まえるならば、彼の一見堅牢で愛がわからないと言う台詞は、 納得できる。彼の環境が、彼をそういう風にさせたのだ。 (因に橋口監督も親が離婚しているので、監督の思慕した男が青年なのか、 監督自身なのかはわからない。複合的に作られた人物だと思うのだが)

しかし青年は、女の先輩の家で吐いてしまう。先輩の父が、自分を 買った男という事実に耐えられなかったのだろう。しかし、彼は帰り際 「なんでもないですよ。これくらい。大丈夫な自信あるんです」と 言って、元の堅牢な自分に戻るためかのように先輩にキスを、 あえて人目がある場所でする。

そしてラスト。橋口監督演ずる買春男に絡まれ、あたかもドキュメンタリーのような言葉で青年は罵られる。買春男も、ゲイであることを秘密に しないといけないかもしれないが、俺だって背負ってる物はあるんだ、 とばかりに感情の蓋を開け、子供のように泣きじゃくる。 横で高校生が歌う。「♪いいな。いいな。人間っていいな」

公開当時は、実は、自主制作みたいだなと思った記憶がある。 (PFFだから、実際そうなんだろうけど) けど10年経って見ると、登場人物全てが、生活や幸福(はあんまなかった けど)や不幸を背負って生きてるってことに気づかされる。 そして、それは・・・現実を生きている私たち自身が、背負っていることでもあるのだろう。

(評価:★5)

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