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[コメント] ミッドウェイ(2019/米=中国=香港=カナダ)

1937年、日米開戦以前の日本から始まる。

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







葦の群生が、それとしてやがて画面の中で判然とする。これだけで、故なく「映画」だと感じられる。なに故かは自分でもホントによくわからないが、たしかに。

空母は艦載機にとって何よりも欠くべからざる帰還する場所であり、それを失うことは即ち海の藻屑と消えることに他ならない。 そして帰還とはもちろん戻ることであり、またそれを何度でも繰り返すことであり、したがって艦載機の着艦=帰還の場面をバリエーションをつけて繰り返し挿入することは、何より物語映画の作法として正しい。

だからこそ、これもまた反復される急降下爆撃の航空アクションも、映像的な構図として似通うかに見える特攻とは似て非なる、飽くまでも帰還への意志を大前提としたものとして描く。 そしてその一方で、炎上する自軍空母を眼下に見つつ計器が示す自機燃料の枯渇を見る日本兵操縦士の図で、帰還する場所=空母を失うことの現実のシビアさをも暗に描く。

米日の主要キャストも含め、この映画では誰もが本質的にモブのようにそこにいる、ように見える。この顔=この人とは撮られていない。それは歴史的戦場に於ける実在の群像を捉える姿勢の表れのようで、それがこの映画なりの歴史的事実へのリスペクトでもあるのではないか。モブによるモブの為の戦記映画。

撃墜され特攻的に自艦に突入してきた敵機に「米人にそんな(特攻するような)度胸はない」と言う南雲。殊更主義主張を叫ばせなくても、さりげない一言にともすればその人物の思想信条さえ垣間見させるようなダイアログは、巧みな脚本の典型ではないか。各人物が本質的にはモブだとしてもダイアログはそれ自体で響き合い、暗にその意味を示す。

「西部劇」への言及もあり、また本篇の作劇構成の基底を貫く「帰還する」という主題故の、ジョン・フォードの召喚なのか。

空母とその艦載機を巡る、恐らくは「あるある」なのだろう細部描写は、単に軍事フェチ的な嗜好というより、それでも「人間の舞台」として捉えられた戦場描写として印象される。ならばとすれば、やはりジョン・フォードの召喚も宜なるかなではある。

米日双方へのリスペクトを意識したような造りは、マーケティング的な配慮でもあろうが、それ以上に歴史的事実そのものへの、またその中で現実に生きて死んでいった人間達への真摯な情理の発露なのだと思える。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ゑぎ[*] けにろん[*] 赤い戦車

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