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[コメント] 告白(2010/日)

十分楽しめるんだけど、結局、断片でしかない。学校も家族も映画も原作も。100612
しど

この作品に「テーマ」といえるモノはあるのだろうか。

描かれる人物や「繋がり」は全て希薄であるが、希薄さを問題視する訳ではない。ただ、希薄ながらすがりついた「家族」を奪われた主人公が、他の希薄な関係性を突くことで、関係者たちがどんどん解体していく、それだけの物語である。

原作も読んだが同様だった。むしろ、開き直って、「テーマなど糞食らえ!」で、一学級の生徒達の死に様をポップに書ききったパルプフィクションの「バトルロワイアル」(書籍)の方が、よっぽど真摯だと感じられた。

主人公が果たして教師として正しかったのか、親として正しかったのか。ここに価値は提示されない(原作では、殺された娘が幸せそうだったとしているが)。全てがズレたまま、不幸を引き寄せ、破滅の道へ突き進む。

「ズレ」とは、原作者も、中島監督にもある。原作者はシナリオライターであって、小説家ではない。そして、中島監督も出自はCM監督であって、映画監督ではない。このズレが本来、小説に、そして映画に宿るはずの「魂」が無いまま、人物を駒として扱い、娯楽としての希薄な悲劇を完成させた。「バトルロワイアル」ほど、開き直ることもなく。

中島監督は、エンタ監督としては、類を見ない力量を持っているし、個人的にも好きである。だが、監督の演出の売りは、映像を埋める過剰な緻密さである。記号の周到な過剰が時にズレをも生じて、エンタを完成させる。しかし、今回は、隙間を敢えて残すことに徹している分、その隙に埋まるモノが無いように感じられた。

原作の比較が「バトルロワイアル」だとすると、この作品の比較対象は、岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』である。中学生達の理不尽と効果的な音楽の使い方が共通するが、隙間が埋まらないままの中島監督に比べ、むしろ、岩井は隙間の空気感を描くのが得意な監督であったから、不安な空気がきちんと作品に魂として吹き込まれていた(逆に、エンタが不得意な岩井の『スワロウテイル』は、中島なら名作にできたはずだ) 。

こうした全てのズレや空虚がこの作品の「売り」だとするなら、ただ、私は趣味が合わなかっただけなのだろう。それでも、隙も無く描ききったエンタとしてのこの作品は、とっても面白かったし、出てくる「馬鹿」達への怒りも湧き上がった。しかし、中島監督への期待の裏返しとして、平凡だと評してしまった。これはこれで、何かが欠けた状態の僕自身の「ズレ」なのかもしれない。

なんてね。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)緑雨[*] ロープブレーク[*] おーい粗茶[*] けにろん[*]

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