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[コメント] 真夏の夜のジャズ(1959/米)

マーティがタイムスリップして「ジョニー・B.グッド」を演奏してから3年後のジャズフェス。ルイ・アームストロングは北島三郎。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







4Kレストア版を映画館で鑑賞。 ジャズファンには垂涎ものの貴重な映像集。ジュルジュル。 でも正直、映画として褒められる出来かと問われれば疑問。

写真家が映画を撮るといつも同じ罠にハマってる気がするんですよ。 「撮りたい映像」ばかりが先行して「伝えたい内容」が表現できていない。映像は美しいんだけど、ツマラナイ。 簡単に言えば独りよがり。 「ニューポート・ジャズ・フェスティバルとアメリカズカップの記録である」って、どんな言い訳なんだよ。

ただ前述した通り、ジャズファンには嬉しい作品。 私もアニタ・オデイ目当てで映画館に足を運んだんですけどね(めっちゃ歌巧いと思うんだ)。動いてるアニタ・オデイを初めて見た気がする。 ジャズ巨人達の全盛期の映像(しかもカラー)ってあまり無くて、たいがい演奏とジャケ写しか知らんのですよ。

なので、あの人が!この人が!っていろいろ書きたくなる。 セロニアス・モンクはおもちゃのピアノを太い指で弾いて鍵盤2つくらい余計に叩いちゃったような音を出すよね、とかさ。 ルイ・アームストロングの安定感はまるで紅白の北島三郎みたいだ、サッチモはサブちゃん、とかさ。

しかし、60年も経た「今」観たからこそ分かる映画の感想を書きたいと思います。

その前にサッチモのことを少し書くけど、「この素晴らしき世界 (What a Wonderful World)」が代表曲じゃないですか。もう耳タコ。でもその曲、この映画から10年近く後なんですよ。この映画はシメで「聖者の行進」を演奏しますが、サッチモの「聖者の行進」って私の幼少期の記憶にある。それほど世界的に大ヒットした気がします(映画『5つの銅貨』の中でダニー・ケイと歌っているのがどうやら同時期らしい)。「この素晴らしき世界」は、北島三郎なら「まつり」なんだけど、この頃は「与作」だったんです。

時を戻そう。

マーティ・マクフライがデロリアンでタイムスリップした先が1955年。 そこで演奏した「ジョニー・B.グッド」を電話越しで聞いて“ロケンロール”を始めたのが、この58年のフェスに参加しているチャック・ベリーであることは皆さんご承知の通り。 いやもう、のりのりチャック・ベリーと次のチコ・ハミルトンの落差に笑っちゃうのは置いておくとして、ビートルズのデビューが62年ですから、チャック・ベリーやプレスリーが人気だったとはいえ、まだ“ロック”前夜の“ロケンロール”は、R&Bの一種として、ゴスペルなどと一緒に“ジャズ”扱いだったことがうかがえます。

しかしお聞きの通り、チャック・ベリーの演奏曲「スウィート・リトル・シックスティーン」は、まんま「サーフィンUSA」(63年)なのです。盗作かリメイクかはともかく、チャック・ベリーの影響が大きかったことは事実です。 「サーフィンUSA」のヒットを知ってか知らずか、同じ年にビートルズもテレビで「スウィート・リトル・シックスティーン」を演奏しています(「ライヴ・アット・ザ・BBC」収録。他にもチャック・ベリーのカバー数曲あり)。 こうした“チャック・ベリー門下生(?)”たちは、その後、ビーチ・ボーイズ(というかブライアン・ウィルソン)が「ラバー・ソウル」に衝撃を受けてサーフィン・サウンドを捨て、そこで生み出された「ペット・サウンズ」に今度はビートルズが衝撃を受けて「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」を生み出す、といった具合に、互いに刺激し合いながら“ロック”を進化させていくのです。

一方、アメリカでのジャズ人気は下降線を辿り、マーケットの主軸はヨーロッパに移っていきます(そう考えると、ヨーロッパマーケットを開拓したのがサッチモだったという証言記録でもあるな)。 ジャズ黄金期の映像が少ない理由の一つはここにあるんですよね。映像よりライブの時代がジャズの黄金期だった。マイケルJフォックスが調子こいて「変わった音楽」を演奏しなければこんなことにはならなかった。

チャック・ベリー絡みの無駄なネタを言い出したので長くなってしまいましたが、何が言いたいかと言うと、この映画は「ジャズが一番いい時代」を切り取ったということです。 そして、ジャズが一番いい時代ということは「アメリカが一番いい時代」でもあったわけです。実際このフェスの3年後、アメリカはベトナム戦争という泥沼に片足を突っ込むことになります。マヘリア・ジャクソン「主の祈り」で映画の幕を閉じるのも、まるで何かの象徴のようです。

つまりこの映画は、「アメリカの一番いい時代」を切り取った作品だったのです。

しかし、それは結果論であって、制作時に意図したことではありません。 ジャズが斜陽になるのも、アメリカが泥沼戦争にはまるのも、アニタ・オデイがヘロイン中毒になるのも、ダイナ・ワシントンが睡眠薬の過剰摂取で39歳で死んじゃうのも、エリック・ドルフィーがヨーロッパツアー中に36歳で突然死するのも、33歳のリー・モーガンが愛人に射殺されるのも、当時は誰も知らなかったのです。時も戻せないし、未来も予測できないのです。 あ、リー・モーガン出てないや。

(20.08.22 角川シネマ有楽町にて鑑賞)

(評価:★3)

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