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[コメント] 人間の條件 第1部純愛篇・第2部激怒篇(1959/日)

ある意味、タイムスリップ物
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







五味川純平の実体験に基づいた大ベストセラーの映画化。反戦映画の決定版。あと、意外にも仲代達矢の初主演映画(らしい)。 全6部の撮影に足掛け4年。その合間に仲代達矢は『用心棒』と『椿三十郎』に出たそうだ。すげーな。

8月になると反戦ドラマをテレビでやったりするが、(向田邦子モノ以外は滅多に見ないけど)いつも気になることがある。 主人公をはじめ登場人物達に「反戦思想」が蔓延し、悪いのは一部の軍人だという“サルにも分かるヒューマニズム”でドラマが構成され、それがまかり通っちゃう場合がほとんどである(<見てないけど)。 民間人が街中で「誰がこんな戦争を始めたんやー!」とか平然と絶叫したりする。 あんた、憲兵に連行されますぜ。 時代考証というのは、セットや小道具だけのもんではないと思う。

たしかに、仲代達矢演じる梶のような「反戦」「ヒューマニズム」思想を持った人は当時でもいただろう。 だが、梶のような思想を「アカ」と断じる人が大半だったと思う。 整理すると、今時の反戦ドラマは「多数の善人vs少数の悪人」、この映画(というか実際)は「少数の善人vs多数の悪人」という相違がある(善悪という表現がいいかどうかは別として)。

おそらく、社会派・小林正樹の描きたかったものは、善人・梶のヒーローショーではない。 非道で理不尽な“あの空気”を描き、批判することではなかったか。 “多数の悪”を描写するために、対比として“少数の善”を誇張したのではないだろうか。 ぶっちゃけ、梶の行動は青臭い。 青臭いけど、対比のための必然にも思える。

原作は戦後約10年。映画は約15年。当時の記憶が残っていた時代だ。だから「批判」として成立した。「当時の空気感」ではなく、もっとリアルな「あの空気」。

だが、今、この映画を観るとどうだろう? 戦後生まれが還暦を過ぎ平成生まれがトップアイドルとなる現代では、ある意味、現代人(現代的な思想を持った人間)が過去にタイムスリップした「ギャップ物」にも見える。 いや、それが悪いとは言わない。我々が皮膚感覚で理解するのは絶対無理なんだから。 むしろギャップ物でも、当時の空気感を(おそらく)正確に我々に伝えてくれる貴重な映画。

そしておそらく、自身も出兵した小林正樹は(原作者・五味川純平も)、自らの戦争体験の中で自らは起こせなかった「人間らしい行動」を梶に託したのではないだろうか。

日本人なら観るべし。全6部9時間半。長えよ。

(11.08.15,16 BSにて鑑賞)

(評価:★3)

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