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[コメント] ハナレイ・ベイ(2018/日)

いい映画だったし、吉田羊はいい女優だ。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







村上春樹『東京奇譚集』の短編の一つ。まだ私がハルキストになる以前に読んだので、丸っと忘れていた話。 村上春樹はストーリーで引っ張っていく作風じゃないから映像化に向かないし、一般受けもしないから、映像化には不安しかない。映像化作品もそんなにないんだけど、村上春樹作品の映像化としては『トニー滝谷』以来の成功作じゃないかと思います。

長い時間かけて静かに心の穴を埋めていく(喪失を受け入れていく)物語というジャンルがあるんですよ。 江國香織原作・合津直枝監督の『落下する夕方』とか、フランソワ・オゾンの『まぼろし』とか。 静かに狂気に落ちていくというジャンルもあります。カサヴェテスの『こわれゆく女』なんかが代表例。 この両ジャンル、私は紙一重というか、表裏一体のような気がするんです。

この映画、吉田羊演じる母親が10年間静かに溜め込んだ“狂気”を爆発させる物語だと思うんです。 その爆発が、狂気サイドに落ちるか、自身の空洞を埋めるか、の違いなんだと思います。

トラン・アン・ユンの『ノルウェイの森』もそうなんですが、村上春樹の主人公はよく歩きます。小説を読んでるときは気付かないんですが、映像化されると改めて気付かされます。 その“移動”は文学的な意味を持ちます。それを映画的な意味、映画的な情景に出来るかどうかが監督の手腕じゃないかと思うのです。

この映画はそれが分かっている。監督も吉田羊も。あの浜辺を彷徨う吉田羊は“狂気”なのです。

ああ、そうか。これを書きながら気付いたんですが、この映画は必ずしも「喪失を受け入れる」物語とは限らないんだな。もしかすると「狂気に落ちる」物語かもしれない。

(18.11.04 ユナイテッド・シネマとしまえんにて鑑賞)

(評価:★4)

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