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[コメント] 食べる女(2018/日)

久世光彦か森田芳光で観たかった。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







一昨年だったか、筒井ともみさんに仕事でお会いしたことがあります。その時調子こいて「『それから』以来のファンです」と言ったもんだから、森田芳光のこと、松田優作のこと(仕事と関係ない話を)延々うかがいまして。その際「まだ公表できないんだけど」と、この映画を企画中であると教えてくれました。小泉今日子と朝まで飲んだそうですよ。 それまで筒井さんは「掛け持ちしない」というポリシーで一つの仕事をゆったりやってきたそうですが、最近は年齢のせいか(失礼)やりたいことをやりたくなったそうですよ。なもんだから、自らの原作を本業の脚本はもちろん、企画・プロデュースして映画化したとか。

話自体はさすがだなと思います。 「自分らしく生きればいい」という女性に向けた応援歌なのでしょう。 月や水という“女性”的なイメージを出し、豪華女優陣各々に過不足なく見せ場を与える。

“食”と“性”を絡めて描く手法はよくあります。

代表格は伊丹十三。中でも『タンポポ』は真正面から挑んだ映画だと言っていいでしょう。 森田芳光も食事に“記号的”な意味合いを持たせることが好きな監督でした。今にして思えば、筒井ともみとは『失楽園』で“食と性”に取り組んでいたのかもしれません。 少し話が横道にそれますが、筒井ともみ脚本・小泉今日子主演は「センセイの鞄」という川上弘美原作の傑作単発ドラマがあり、その演出は久世光彦でした。久世光彦演出「寺内貫太郎一家」の脚本・向田邦子は食通で、食にまつわるエッセイを多数残しているのはもちろん、「寺内貫太郎一家」の脚本では、食卓のすき焼きの牛肉に値段まで書かれていたそうですよ。 そう考えると「縁」なんですよね。 向田邦子の『あ・うん』は筒井ともみ脚本・久世光彦演出でリメイクしているし(向田邦子新春シリーズ)、向田邦子『修羅のごとく』は筒井ともみ脚本・森田芳光監督でリメイクしている。もちろん向田邦子賞も獲ってるしね。森田芳光が松田優作で撮った『家族ゲーム』の長渕剛テレビ版は筒井ともみが脚本を書いている。そして、松田優作を介して『それから』で森田君と筒井さんは出会う。

ずいぶん余計なことを延々書きましたが、この映画はどうだったのかと言うと、んー、どうかなあ? 正直、豪華女優陣は美しく撮れてないし、そもそも料理が美味しそうに見えない。 前者の意図は分かるんです。女性の自然体の姿を撮りたかったのでしょう。それにしてもねえ。もっと「自然な美しさ」を撮れなかったもんか。 「あんた美味しそうに食べるね」って台詞で言うけど、感心するほど美味しそうに食べてるように見えない。

TBSドラマの名演出家にこんなこと言うのもナンですけどね、とにかくテレビ的な凡庸な演出ということもさることながら、決定的なのは「観客の観たい画面」を見せてくれないというところにあるんです。 象徴的なのが「井戸」。少女たちが井戸を覗きますよね。この時、観客も一緒に井戸の中を見たいんです。ところが(おそらくセットの都合でしょうが)中を見せてくれない。これ、映画的には見せないことに“意味”が生じちゃうんです。ホラーなんかでよく使われる手法ですが、そこにある(であろう)“何か”に観客は期待を寄せてしまう。この監督は、そういう所が分かっていない。

そもそも、美しい豪華女優陣を見たい!あるいは食べ物が美味しそう!という観客の期待に応えられていない。 この企画の肝じゃないの?

(18.09.23 新宿バルト9にて鑑賞)

(評価:★3)

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