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[コメント] 万引き家族(2018/日)

片鱗を描写することで炙り出す「フレームの外」。そこにある社会という枠の外(の片鱗)を描く映画。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







どうも。「その「おこだわり」、私にもくれよ!!」ぶりに松岡茉優好きが再燃しているペペロンチーノです。松岡茉優の胸の谷間サイコー!という論調でもよかったのですが、そういう映画でもないので真面目に書きます。 死体も花火も写さないことで「片鱗を描写する映画ですよ」宣言をし、画面(フレーム)の外に物語があるという映画。そしてそれは、社会という「枠」の外を描いた物語である、という論旨でコメントします。どうぞよろしく。

例えば森口瑤子。 高校生の娘との(白々しい理想的母娘的)会話などから、松岡茉優はこの森口瑤子とソリが合わずに家出したのであろうことが推測されます。「留学」も世間体を気にした言い訳に違いありません。

ついでに言うなら、夫が家を出ていったという設定は『海街diary』でも使われたモチーフで、この森口瑤子&緒方直人の家庭は『そして父になる』の福山雅治側の家庭でもあるのです。 つまり、過去作のモチーフを別の視点で切り取っているとも言えます。

ついで話を続けると、抜けた(下の)乳歯を屋根に投げ上げるシーンがありますが、『誰も知らない』でも引っ越し蕎麦やお年玉などの日本古来の行事を重視します。(部分的ですが)本当は常識人であることを匂わせます。 疑似家族は『そして父になる』『海街diary』など繰り返し使われますし、松岡茉優ちゃんと池松壮亮のクダリは『空気人形』です。導入は山中貞雄の『百万両の壺』ですが、これは『花よりもなほ』でチャレンジしたモチーフです。

話を戻しましょう。

例えばリリー・フランキー。 「ウチのも客だった」「松戸のパチンコ屋の駐車場」「あれは正当防衛だって」「アンタは前があるから」。これらの安藤サクラの台詞で背景が浮かんできます。

日雇労働の帰りに寄ったスナックで従業員の安藤サクラに出会った。そんな所でしょう。夫の暴力に苦しんでいた彼女(腕の火傷はその時のものかもしれない)は夫を殺害し、リリーさんがその死体を埋めた(殺害は正当防衛が認められたが死体遺棄はリリーさんが被った)。その後二人で流れ着いた町で、パチンコ屋の駐車場の車内に放置されていた幼子を救い出す(真夏だったのだろう)。社会から見捨てられた孤独な老婆・樹木希林に出会い、そして「りん」も救う。 万引き野郎リリー・フランキーは、実は何人もの人を救ってきた正義の味方だったのです。先に述べた(部分的)常識人も重なります。ステロタイプではない「人」の片鱗かもしれません。

「産まないと親になれない」

逆に言えば「産んだけど親になれなかった者」の片鱗も描かれます。 直接的には片山萌美がそれに当たりますが、森口瑤子も樹木希林も、映画には登場しない少年を捨てた実の親もそうなのです。これも社会の片鱗です。

音しか聞こえない花火を見上げます。 何か上の方にあるらしい。普通の生活とか、幸せとか、そういったものが。音は聞こえる。でも見えない。見上げることしかできない。それが彼らの状況。一見家族団らん風景でありながら意味のある、とてもいいシーンです。

ジュリエット・ビノシュが絶賛したという安藤サクラ泣きの演技(アドリブらしい)、実年齢より老けてみせた樹木希林(入れ歯を外したらしい)、松岡茉優の胸の谷間(ナマ乳らしい)、子役も含め役者陣が実に見事な演技で「片鱗」を描写します。演技がちゃんとしてないと、背景が浮かび上がってこないからね。

そして私がこだわる森口瑤子のクダリ(『そして父になる』の福山雅治側の家庭)ですが、「家出娘」を忘れて(見て見ぬふりをして、あるいは排除して)、また亡き義父の出自を隠して、理想的な家庭を演じているのです。樹木希林に小金を渡したりしてね。 これは、この映画が描く「世の中」に置き換えられます。

つまり社会そのものが、この『万引き家族』のような人々を「枠外」に追い出して、その存在を忘れて(見て見ぬふりをして)理想を演じているのです。 時々気付く人もいます。柄本明のようにね。でも死んじゃうんですよ。さして手を差し伸べられないまま。

ドキュメンタリー出身の是枝監督は、片鱗を描写することで問題提起だけをします。真正面で捉えてしまったら、それが答えになってしまうから。 それでも彼は、一つの方向性の「片鱗」も提示します。わざと捕まる少年がそれです。 疑問を感じ、流れを断ち切ろうとする。誰かがどこかで何かをしないと、この流れは変えられない。誰かがどこかで止めないと、俺はいつまでもこの映画を「松岡茉優の胸の谷間映画」と言い続ける。そういう映画です。

(18.06.10 ユナイテッド・シネマとしまえんにて鑑賞)

(評価:★5)

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