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[コメント] 予兆 散歩する侵略者 劇場版(2017/日)

これだよ、これ。この設定だったらこういう話にならなきゃ。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







岸井ゆきのを見るために『おじいちゃん、死んじゃったって。』を観ようとテアトル新宿に向かってたんです。で、クソ映画館=新宿ピカデリーの前を歩いてたらこの映画のポスターがあったんです。ヨメが見つけましてね。何これ?何これ?と言い出したわけです。私はこの映画を黙殺してたんですよ。元々WOWOWドラマだし、そろそろ黒沢清見切り時なんじゃないかと思っていたし、だいたい『散歩する侵略者』が恐ろしくツマラナかったもので。 そんな話をしながらポスターをよくよく見たら、岸井ゆきのが出てるじゃないですか。おまけに石橋けいに渡辺真起子も出ている。そりゃ観なきゃ(<そこかよ)。動線を無視したクソ映画館新宿ピカデリーだけど、観なきゃ。というわけで急遽予定を変更して観たわけです。

面白かった。本体よりはるかに面白かった。

夏帆ちゃんはスクリーミング女優(叫ばないけど)の新境地を開拓したし、天才・染谷将太はその天才っぷりを遺憾なく発揮し、東出昌大はその木偶の坊っぷりを遺憾なく発揮している。ついでに言うなら、岸井ゆきのの良さを引き出してるし、石橋けいらしい石橋けいだし、渡辺真起子らしい渡辺真起子だった。中村映里子もよかったよ。 最後の廃工場(?)の緊迫感なんか、黒沢清が好きなアサイヤスぽかったよ。ぽいぽい。

設定は本体と全く同じ。大きなストーリーだって同じ。でも、取り扱う「概念」、言い換えれば「物語」の切り取り方が変わるだけでこうも変わるものか、という典型。 もしかすると黒沢清は、本当はこっちを撮りたかったんじゃないの?と思うほど。

黒沢清は「この世界は不安定である」ことを描く作家で、あの安っぽい物語だった『散歩する侵略者』は(おそらく原作のせいなんだろうけど)、その本質が見失われていたように思うのです。 なんかこう、目先のドタバタに追われていたというか、何を描きたいのか分からないまま話が進んでいった。 しかし本作では「この世界は不安定だ」とはっきり言うんですね。それはテレビドラマだったからかもしれませんが、テーマを明確に提示しちゃったから、全ての出来事がテーマに沿って描かれていることが手に取るように分かる。分かるから何をやってるのか理解できるし、理解できるから楽しい。

たしかに突き詰めていくと「何で夏帆ちゃんは特別なの?」と思うんですけど、なんだか飲めちゃったんです。なんだか許せるんです。 黒沢清もそう言っていたようですが、「ああ、世界を変えるのは女性なんだ」って素直に思えたんです。 男はね、「手が痛ぇ」とか言ってのたうち回ってるだけなんですよ。それが世の中なんです。

散歩する侵略者』は「愛」の概念の扱いが、龍平の「なんじゃこりゃぁ〜」的な親父パロディでしか表現されませんが、現実問題として、「愛」なんて概念、人間だってはっきりわからないもんですよ。 この映画は、夏帆ちゃんの「献身的な戦闘」が一つの「愛」の形なんだと、その概念を提示してくれたんだと思います。

(17.11.12 新宿ピカデリーにて鑑賞)

(評価:★4)

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