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[コメント] 東京流れ者(1966/日)

なんかもう、映画自体が「流れ者」感。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







私、渡哲也という俳優を「松竹梅」以外で見たことがないんです。西部警察も大都会も「マグロ!二夜連続!」も微塵も観たことがない。弟はあんなに見てるのに。『事件』とか『震える舌』とか『セーラー服と機関銃』とか「おみやさん」とか「タクシードライバーの推理日誌」とか(<かなり偏った認識)。

その追悼上映が神保町シアターでありまして、足を運んだわけです。 なぜなら、実はこの鈴木清順作品を観ていなかったから。 これも観ずにお前は清順ファンを語っていたのかとお叱りを受けるかもしれませんし、清順ファンのくせにこの映画が面白くなかったのかとお叱りを受けかもしれません。はい、そうです。いや、面白くないわけじゃないな。なんだろう?一口に言うなら、ヒドイ。 渡哲也目当てに神保町シアターに詰め掛けた(と言うほど客はいなかったけど)ご年配の皆様がポカーンとして帰られたのが気の毒で・・・。

鈴木清順が日活を解雇されるきっかけとなった『殺しの烙印』(1967年)の前年の作品。この『東京流れ者』も会社と揉めてラストシーンを撮り直したとか。 同じ66年には『河内カルメン』『けんかえれじい』も製作しており、43才の鈴木清順が絶好調だったことがうかがえます。

私は日活時代の清順作品を、「会社の企画」と「清順美学」の“つばぜり合い”だと思っています。 もっとも、清順作品が突如「変」になったのは63年からというのが定説であり、日活時代というよりも1963-67年という短期間の闘争だったのかもしれません。鈴木清順アラフォーですな。

その63年に製作されたのは、『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』『野獣の青春』『悪太郎』『関東無宿』と実に4本。 私は『野獣の青春』を「“平凡”と“奇抜”のバランスが非常に悪い」と評したのですが、この頃はまだ“つばぜり合い”なのです。 最終コーナー回って最後の直線よーいドンで一気に清順美学が炸裂する『刺青一代』(65年)辺りから優勢になり、『殺しの烙印』で圧勝する(それで解雇される)。で、この『東京流れ者』はその圧勝寸前の一作で、もはや「企画物を清順色に染めた」次元ではなく「清順美学のために用意された企画」にすら見えてくる。

何ていうのかな、映画自体がアウトローで空虚。 私には、この「圧勝間近」時期の作品(特に殺し屋物)の、清順が好んで描く「虚無感」が「空虚」に見えちゃうんです。

(20.10.31 神保町シアターにて鑑賞)

(評価:★3)

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