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[コメント] レヴェナント:蘇えりし者(2015/米)

テーマも技術面もその方向性は同胞アルフォンソ・キュアロン『ゼロ・グラビティ』と似ている。やばいテレンス・マリック臭がするけどな。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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2021年にケーブルテレビで観たのですが、観るんだったら公開時にスクリーンで観るべきでした。観ないんだったら観ないままでよかったんだけど。 その理由の一つは、過酷で美しい雄大な風景を大きなスクリーンで観たかったこと。 もう一つの理由は、コロナ禍の最中に観たので「自然」や「生きる」ということに対する意味合いが変わってしまったこと。映画は意外と「旬」なもの。映画は本来、時代も国境も超えられないと言ったのは押井守だったかな? 観なくてもよかった理由?立派な映画だけど楽しくないから。

まずこの映画、撮影が凄い。凄いというかトチ狂ってる。 VFXも多用してるでしょうし撮影機材も軽量化してるんでしょうが(そういった意味では技術革新が文化を変えていく好例だと思う)、それでもかなり過酷なロケだと思うんです。 例えば、戦闘シーンとか乱闘シーンに限って長回しするんですよ。何でわざわざ苦労してんだよ。カット割れよ。バカじゃねーの? 引きの絵もちゃんと撮ってるんですよ。ということは、役者だけ残して撮影隊は遠くに移動して撮影しているわけです。わざわざ苦労してんですよ。もう一度言うけどバカじゃねーの? ただ普通ね、「バカじゃねーの?」って言う時は笑ってるんです。でもこの映画、ガチ過ぎて笑えないんだ。

要するに「そういう画面(えづら)が撮りたい」って思うイニャリトゥがトチ狂ってるんです。スタッフ大変だな。 だいたいイニャリトゥはメキシコの人ですからね。雪なんて見たことないんですよ。彼にとって雪はSFなんです。アルフォンソ・キュアロン『ゼロ・グラビティ』と一緒。

いや半分本気で、本当に『ゼロ・グラビティ』と似ていると思ってるんです。 長回し等の特殊で個性的な撮影とか、「死と生」の物語である点とか。基本、サンドラ・ブロックが宇宙空間でのたうち回ってるか、デカプーが雪原でのたうち回ってるかだし。 もう一度言いますが、立派な映画なんですよ。ただ、やばいテレンス・マリック臭がするのが気になりますけど。冒頭なんかテレンス・マリックのパロディーみたいだよね。

イニャリトゥの前作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を、私は「喪失と再生の物語」と読み取りました。 いや、『バベル』も『21グラム』も、おそらく同様なのです。 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥはいつも「喪失と再生の物語」を描いている。 もちろんこの『レヴェナント』も同じです。 復讐とサバイバルの先に「喪失と再生」が描かれているのです。

廃墟となった教会の前で息子と会う夢を見ますね。あれはまさに「再生」のシーンです。 この夢を見た時のデカプーは吹雪に埋もれた簡易木製テント(?)内で眠っています。これは子宮の中の胎児の暗喩です。 木製テントをぶち破って朝日眩しい外に出る様こそ、彼の新たな誕生なのです。

語弊があるかもしれませんが、過酷なサバイバルをしている時のデカプーは案外幸せだったのかもしれません。 なぜなら、そこには復讐という「生きる目的」があったから。 ラストのデカプーのアップが、なんだか私には「生きる目的を失った男の顔」に見えたのです。

(2021.01.17 CSにて鑑賞)

(評価:★4)

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