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[コメント] 黒衣の刺客(2015/台湾)

“情景”を描ける稀有な作家ホウ・シャオシェン。実は「情景しか描けない」という馬脚を現す。この映画は綺麗なだけで魂がない。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最近の多くの映画は(最近に限った話ではないかもしれないが)、その面白さをストーリーテリングや見た目の派手さに依存し、映画らしい“情景”が描かれることが少ない。しかし、ホウ・シャオシェンは、リー・ピンビンの撮影もあって、映画的な“情景”を描ける数少ない作家だと思っている。

しかしこの映画は、情景ばかりが描かれてちっとも話が転がらない。これが武侠映画じゃなかったらそれでもよかったかもしれない。「クラシカルな武侠映画」と言えば聞こえはいいが、圧倒的に情報量が少ない。正直に言っちゃえば“退屈”。

“情報量が少ない”と書いたものの、光や風といった“情景”を描くための情報はたくさん盛り込まれている。少ないのはストーリーのための“情報”。 一つ一つのシーンは「彼女は刺客です」「彼は王様です」「王様の奥さんです」「愛人です」といった一つの情報しか提示していない。まるで紙芝居。いや、紙芝居より情報量が少ない。 そして、リー・ピンビンの美しい撮影は客観的で、登場人物は風景の中に“記号”として“配置”される。そんな魂の入っていない“記号”が剣を交えたところで、観ている側の心が動くはずがなかろーもん。

ペラッペラに薄くて断片的な情報提示と客観的な記号、そして転がらないストーリーと何も描かれない物語。 この映画が退屈なのは、テンポが遅いというよりも、こうした理由によるものだと思う。

たしかに撮影(というかロケーション)は凄いので、何やら賞をあげたくなる気持ちも分かるが、はっきりキッパリ言って、ただの「絵の綺麗な紙芝居」。 だったら美術館で絵画を見てた方がマシ。

余談

なんでも日本で公開されているのは「日本特別版」らしい。本国版ではブッキーの出番がもっと少なく、忽那汐里に至ってはオールカットだという噂。

(15.09.20 渋谷TOEIにて鑑賞)

(評価:★1)

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