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[コメント] 子猫をお願い(2001/韓国)

何処かいい居場所はないか子猫チャン。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「映画は時代も国境も超えない」と、たしか犬好きの押井守が言ったと記憶していますが、20年も昔の韓国の、しかも女子の状況なんか分かるわけがない。

実は「ペ・ドゥナをお願い」と銘打った早稲田松竹2本立てで『ほえる犬は噛まない』との併映で鑑賞したのですが、ペ・ドゥナの魅力再認識以外に、この時期の韓国社会は閉塞感に包まれていたんだなあということが分かりました。

ほえる犬』の台詞で「戦後」「建設ラッシュ」という、朝鮮戦争(53年休戦)やソウル五輪(88年)を想起させる単語が出てきて気付いたのですが、90年くらいまで韓国社会は経済成長を続けたのです。それが、90年代後半からバブルがはじけ、数々の手抜き工事の発覚、元大統領やその家族の不正など、ドンヨリした空気が社会全体を覆っていたのだろうと推測されます。 07年デビューの少女時代やKARAが世界進出して韓国社会に光をもたらすまでの谷間の時期。ああ、東方神起の海外デビューがが少し先ですかね。

こうした、閉塞感満載だった当時(20年前)の韓国社会のリアルがこの映画に投影されているものと推測されます。

さらに言うと、この『』も『』も、ペ・ドゥナは「商業高校卒の20歳くらいの女性」という設定です。 おそらく、韓国に多い中間層の女性なのでしょう。彼女たちの社会的ポジションもある程度推測できます。

こうして何とか20年も昔の韓国の女子の状況を推測した上で、この映画は何を描いているかというと、「子猫を押し付けあう話」なのです。 身もふたもない言い方だな。 しかし、この「居場所のない子猫」こそ彼女たちなのです。 商業高校卒の平均的女子が、閉塞感に包まれた社会の中で居場所を探す物語。 それがこの映画です。

よく出来ていると言えばよく出来た話なのですが、改めて「映画は時代も国境も超えない」ことを再認識したわけですよ。 だって制作者にとって、この物語が刺さって欲しい層は「(20年前の韓国の)リアル女子」だったはずです。まさか20年後の日本のオッサンにとやかく言われるとは思ってない。

この映画に必要だったのは、当時の空気感であって、普遍的な何かではない。結果として普遍的な何かが残るかもしれないけど、それが主目的ではない。むしろ、リアルな時代の空気感を正しく掬い取れているかどうかが肝心で、それはやっぱり当時のその場所でなければ分からないと思うのです。

余談

この手の話、よくありそうに思ったんですが、意外と思いつかないんですよ。少なくとも私の頭の引き出しには入ってない。 せいぜい「ふぞろいの林檎たち」くらい。おじさん古いな。

ゴーストワールド』も思い出したけど(あ、偶然同じ01年だ)、社会との関わりというより「若者の焦燥」なんだよなあ。ソーラ・バーチどうしてんのかなあ?

結果、私の中で「閉塞した状況から抜け出そうとする物語」で共通するのは『祭りの準備』でしたとさ。えー!

(2021.2.13 早稲田松竹にて鑑賞)

(評価:★3)

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