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[コメント] 泥の河(1981/日)

田村高廣はマストロヤンニ。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







2022年に、阪妻&田村高廣特集上映の一つとして上映していたので映画館に足を運びました。30数年ぶり、初の劇場鑑賞。

舞台は昭和31年の大阪。敗戦から11年後の設定。映画は一貫して9歳の少年の視点で、戦後生まれの少年自身の思春期の物語と、少年の目を通して見た戦中派の父親の物語が描かれますが、思春期の少年の物語は、友情や別れはもちろんのこと、私は「初恋」だと思うんです。友達のお姉ちゃんやお母さんに対して、9歳の男の子が無自覚に抱く「異性への意識」。加えて、父親の昔の女性に対する違和感。これが「エヴァ」14歳の碇シンジだと、もっと性的な欲求も伴って「女性に囲まれる物語」になるだけど、9歳男子は無自覚なんですよ。

そして父親の物語。おそらく劇中登場する父親の昔の女(舞鶴の)は、戦時中よくあった「出征前の結婚」の相手なのでしょう。いわば、『ひまわり』のソフィア・ローレンに相当する人。つまり田村高廣はマルチェロ・マストロヤンニなのです。

言い換えれば、この映画に登場する大人たちは全員(PTSDという言葉の無い時代の)戦争による後遺症を抱えた者たちであり、戦争によって運命が狂ってしまった人々なのです。彼らは、まだ戦争体験を「精算」できていない。しかし、劇中にも出てきますが、「もはや戦後ではない」と経済白書で宣言して、日本国は戦争を無理矢理「精算」しようとしている。

戦後10年を経て、なお戦争の呪縛から逃れられず、変わりゆく時代に取り残された者の悲しい物語。昔観た時は正直退屈だったけど、年齢を経て再鑑賞したらメチャクチャ面白かった。

(2022.08.11 ラピュタ阿佐ヶ谷にて再鑑賞)

(評価:★5)

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