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[コメント] ザンジバルの西(1928/米)

見た目も、心の中も、ゴキブリ以下のものに様変わりしながらも、たった一つの目的のために執念深く生き続けるロン・チャニーの<ザムザ>。
袋のうさぎ

究極の不幸の連続に涙を流し過ぎて道化のそれにようには凍りついた引き攣り笑いは、駄目押しの悲劇を前にびりびりと音を立てて引き裂けてゆく。

その瞬間、キャメラマンの背後で、「それでいい!」と拳骨を握り締めながら感涙に噎せっている監督の姿が目に浮かぶようだ。

復讐の思いで目の前が曇った男の執念が、車椅子が存在しない時代の不具者の身体を張った一挙手一投足に現れている。

罪がないというよりむしろ脇が甘いようにしか見えない男女を、考えつく限り最も絶望的な状況に追い詰めて苛め抜かなければ気が済まないブラウニング監督の下種な残酷趣味がこれでもかこれでもかというように炸裂する。

何が楽しくて生きているのか不思議に思わずにはいられない人間以下のイキモノが、半身を踏み潰されたゴキブリの魂でしぶとく生き続けていることの物凄さ。素晴らしさ(笑)

密林の薄暗がりのなかで、揺らめく松明に照らされてぼうっと浮かび上がる土人たちのゴーレムのような不気味な佇まいが忘れられない。

レオポルド2世、クルツ/カート大佐、ブルック&ハーラン/ドレイヴォト&カーネハン、日系ブラジル人フーシャ・・・・ジャングルや雪山の奥で、言葉もろくに通じぬ蛮族を従えてこの世の最後の王国を築こうとした男たちの歪な夢が、熱帯の辛苦で変わり果てたフロソの暗い瞳にも宿っている。

(評価:★5)

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