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袋のうさぎさんのコメント: 投票数順

★4彷徨える河(2015/コロンビア=ベネズエラ=アルゼンチン)一族郎党を襲った運命の不条理と折り合いをつけるのに、たとえ迷信にしろ、体系的な解釈を必要とするのはギルガメシュの時代から変わらない。そう思わせる悠久の河=意識の流れ。マングローブに覆われた河岸の底知れなさと、緑の壁のように続く樹冠の高み(白黒画面の豊饒さに目を射抜かれる)。聞こえてくるのはオールの立てる音と小鳥の囀りぐらい。異人との邂逅により運命の逆転に掛ける放浪者の悲願。静かだが充実した映画の時間[投票(1)]
★5オールド・ジョイ(2006/米)本当に我々が大学時代の盟友を帯同して、思い出のハイキングコースを辿り直している気にさせる時間配分。記憶の最もこそばゆいところを刺激してくるショットの瑞々しい喚起力。心からの慨嘆に満ちた言葉とともに紡がれる、無意識の所作と表情の、気配りの行き届いた差配。劇中の台詞「木を通して森を見る」(意訳)を地で行くような、二つの拮抗する細流の出会いとその静かな衝撃を、時代の趨勢の抽出にまで高めようとする思索の跡[投票(1)]
★5ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択(2016/米)ジェンダー・世代・人種/社会グループという三つの不確定要素によって分断された周縁社会の今を生きる女性たちのための新たな西部劇。茫乎たる大自然の只中で拠り所を求める花のかんばせに束の間訪れる羞恥の翳り、信念の結露、多幸感の光輝、当惑の渋み、その崇高さ。まさにその一瞬に向けて、軋轢と和解、挫折と希望、巡り合わせとすれ違いの関係性の構図が、一縷の漏れもない峻厳さで設計される。MWとの三部作の見事な完結編[投票(1)]
★4太陽の爪あと(1966/英)これはむしろ夢野久作や香山滋の世界に通じる、なかなかしんみりとした余情を残す異人悲哀談。肝心の<不気味なもの>の登場まで、ゆうに1時間以上待たされるが、都会の新婚さんが荒っぽい下賤の男達の無知と不埒の洗礼を受ける前振りの部分が滅法面白い。C・ドヌーヴとJ・フォスターの良い処取りしたような清楚系のヒロインの妖精のような俤が、口外無用の奇禍に見舞われた一族の末裔という命運をえらく神々しいものに見せる[投票(1)]
★5ジェラシー(2013/仏)最良のロメールやホンサンスにも遜色のないボヘミアン風恋愛コメディ(!)の傑作。常により多くの光と見晴らしを求めてモノクロの街頭を渉猟する夜蛾のあえかな玲瓏。アンジュ・ガルディアンとしての愛娘の存在が効いている。神の視点ならぬ天使の視点9/10[投票(1)]
★4眠りなき街(1953/米)レールの上の毎日に嫌気がさした男と年々夢が遠のく一方の下積み暮らしに希望を失う女。そんな二人の落着きのない心が再び自分のもとへ戻る日を辛抱強く待つもう一組の男女。そこに悪魔の奸計が働いてお決まりの悲劇を手繰り寄せる。他人事と思えないこの因果。[投票(1)]
★4荒野に生きる(1971/米)ヒューグラスの脱神話化。悩める父を演じて人間味は増したが伝説の西部人のアウラが剥ぎ落とされた。<明白なる使命>の権化のような口吻で捲し立てるJ・ヒューストンが最後の最後でほろりと見せる安堵と羞恥の綯い交ざった笑顔が意想外の清々しさを残す7/10[投票(1)]
★4襲われた幌馬車(1956/米)コマンチかぶれのお尋ね者をガイドにアウトドアのABCが学べるワンダーフォーゲルの合宿のようなウェスタン。夜中の川遊びの思いつきが運命の分かれ道になる下りが佳境。うぶな若者達の前で二言目には先住民の風習を擁護し始めるウィドマークが可笑しい 7/10[投票(1)]
★3テレグラフ・ヒルの家(1951/米)戦争難民によるアイデンティティ・スワップという一風変わったプレミスで始まるゴシックもの。陽光あふれるサンフランシスコの市街を一望する丘の屋敷の立地が画面から翳りを奪い、夜の帳の訪れさえ、馥郁たる潮の香に満ちた開放と冒険の契機に変えてしまう [review][投票(1)]
★3第十一号監房の暴動(1954/米)暴徒の足並みが、無思慮なリーダーの乱心のために須臾にして乱れる端緒を、一閃のアクションで見せるのはさすがシーゲル。それに比べて、団体交渉や集団暴走の場面が妙に醒めていて、本番前のリハーサルでも見ている気にさせる。[投票(1)]
★4掟によって(1926/露)春の到来とともに氷河が融解して、ぐるぐると流氷を漂わせながら氾濫してゆく一方の河畔の掘っ立て小屋に閉じ込められた生存者たちの心許なさが圧倒的! [review][投票(1)]
★5高い標的(1951/米)焦らすだけ焦らして一瞬だけ思わぬ場所に出てくる大統領。その瞬間、形勢不利に始まり二転三転してきた見えない敵との戦いが鮮やかな簡潔さで終結する。長距離列車の移動のリズムに合わせてメリハリをつける宙吊り芸の妙 9/10[投票(1)]
★4TAR/ター(2022/米)ChatGPTが自動生成したような、#MeTooの"リベラル"、あるいは、やんわりとanti-wokeなカリカチュア(デイヴ・ルービンとニコラス・クリスタキスの対談を思い出した)にはどうしても苦笑が漏れてくるが、アントン・シガーやレクター博士に比肩するブランシェットの怪演は、物陰に屈んで「斑点のついた黄色いナシを食べながら、崇拝」したくなるようないじらしさがある。おかげで翌朝の夢の中までリディア・ターの化身に苛まれた[投票]
★4パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021/米=英=ニュージーランド=カナダ=豪)このニューエイジのグルのような風采の監督とはこれまで御縁がなかったが、これは楽しめた。サザンゴシック仕立の面従腹背を雄大な西部の孤絶した山峡へ持ち込み、クリスティ的な目隠しの不穏さと燻製ニシン添えの捻りを加える。サバイバリストのメッカと評判のモンタナが舞台なのも政治的慧眼。キャラの使い分けに歯切れの悪い部分もあるが(特に後半の弟の空気感)、フィルのホモエロチックな色気は女流監督ならではの艶かしさ[投票]
★1テッド・バンディ(2019/米)21歳と11か月まで童貞だった覗き魔でストーカーでオナニー中毒の元帰宅部員とモルモン教徒のおぼこ娘の出会いと別れを彼女視点で描くという出発点はいいが、自己を客観的に見れない人物の自画像を批判的に捉えられないなら、今更映画化する意味がどこにあるのだろう。このテッドのペルソナはディカプリオの廉価版にしか見えない。半世紀たってもメディアの創りだした虚像の呪縛に囚われている。これじゃ、犠牲者の遺族も報われない[投票]
★3トゥルース(原題)(2010/露)Gopnik at its finest?ロシア流『ガンモ』あるいは『ウィークエンド』?開幕早々の素敵な予感はあっさり裏切られるが、最後まで文化的な脈絡がよく呑み込めなかった。準主役級の存在感のあるカジモトの唐突な退場と共に別の映画になってしまった感もある。「二十日鼠と人間」的な展開でも期待していたのか?いずれにしろ、叔父との最初の絡み以降は小粒のイミフなキャラの乱立で迷走感が深まり、端的にいってちっとも面白くない[投票]
★3ナイルヒルトン・インシデント(2017/スウェーデン=デンマーク=仏=独)北欧ノワールの影響は覆うべくもないが、亜語の会話とカサブランカの煤けた街並が、使い古された筋立てに南地中海の風情を添える。それがどの程度ムバーラク政権下の縁故主義と職権濫用の実態を反映しているのか知らない。贈収賄に塗れた汚職警察の活写はディストピア映画と見紛うどす黒さだ。素材の時事性、エジプト庶民の怨念が噴き出したような終幕への意気込みは買うが、概して場面設計と人物演出が普通の連ドラの域を出ない[投票]
★5はかな(儚)き道(2016/独)まことに密やかな映画で、息を潜めてないと、せせらぎのように残響する時間がまるごと抜け落ちてしまいそうで。何に光をあてて何を暗中に残すか、一瞬一瞬の決断に対して(唐突な飛躍・大幅な省略がある一方でイコン画のような神妙な引き延ばしもある。つなぎも変則的で前後の脈絡を見失いそうになる)多くの疑問が生まれてはもやもやを残す*。視力を失いつつある父が世界の指標の有り様を説明する下りが主題のひとつを要約してそう [review][投票]
★4メクトゥー・マイ・ラブ カント・ウノ(原題)(2017/仏)セット*!ニース!学生と観光客と地元のすけこましが糸目もあらわに入り乱れる夏のバカンスの昼下がりと夜通しの馬鹿騒ぎの肉迫が生々し過ぎてとても冷静に見ていられない**。やはり、この人の映画は、褐色の肌に映える白い歯の微笑と南仏の抜けるような青がよく似合う。毎回、お約束のように意中の人をいけ好かない仲間に目の前で掠め取られる主人公が、昼過ぎまで悶々として寝床で過ごす下りは世界の映画青年に捧げられている? [review][投票]
★2心臓にナイフ(2018/仏=スイス=メキシコ)開巻からソフトゲイなジャーロといった感じの色彩感と淫猥さで、この組み合わせもなかなかイケると胸を弾ましたのも束の間。じきに園子温のようなアングラ演劇路線で暴走し始め、ついていけなくなる。多くの場面で、エロスと下品を取り違えているのがつらい。呼び物となるはずの殺戮サーカスは、どれもこれも通り一遍で驚きがない。カラックスのような若い才気の迸りが画面やキャラの爆発的な化学反応に見られるわけでもない[投票]