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[コメント] 風立ちぬ(2013/日)

最後に親父の本音を聞いた・・・。的な映画。 恐らく、長く大衆の興味の対象だった“宮崎アニメの秘密”がこれにより幾つも明るみに出る事だろう。
pori

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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世間での”宮崎アニメ”のイメージに反して、“魔”的な物を描かせて、宮崎駿の右に出る人はいない。 冒頭、二人が出会う、全ての始まりのシーン。その裏で、色、動き、音を駆使して、極めて映画的に表現される震災の風景。 ざわざわと見る者の心に触るような、この邪悪は姿形を変え、幾度となく宮崎作品の根底を支えて来た。 反対に聖なる瞬間の描写はオーソドックスな方法論しかとらない。ともすれば絵での表現を捨て、セリフに走ったりもする。 ココが、長年の宮崎作品の謎な訳だ。 彼は、自分の中にそれがない事を、いや、心の底から人々と共有できるそれをオリジナルな表現で提示する引き出しが自分の中にないと、そう考えていたのではないか? 大衆は、彼の作品を圧倒的にポジティヴなモノとして受け取り、称賛する。 しかし、彼の手から産み出される世界は、実は暗黒に塗れている。 それを、何とか浄化する試みが、彼にとっての物語作りだったのではないか? その業を託されるのは、いつも少女だ。 穢れを見せない、無垢な、母性の塊でいながらセックスの匂いのしない、幼い架空の少女だ。

そして本作 空を飛ぶ純粋性に囚われて、社会的生活者としての自分に実感を持てない男、しかも彼が産み出している物は殺人兵器だ。 そんな彼が家庭を作り世間に根をおろす――。 その欺瞞を許し、浄化してくれる純粋な少女。 彼女は死を賭して彼を愛する。 そして、彼はギリギリ人間でいられた・・・ もちろん、彼は堀越であり宮崎だ。

「風立ちぬ」は、宮崎駿の上を通り抜けて行ったヒロインたちへの贖罪の物語。その罪を認める。最初で最後の告白。 だから、最後の言葉は「ありがとう」だったのだ。

彼の作品の中で一番好きだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)Orpheus[*] ALOHA[*] DSCH[*] けにろん[*]

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