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[コメント] 連合艦隊(1981/日)

人間魚雷回天』や『世界大戦争』の松林らしい節操はここでも生きているが、通史大作の大雑把さはいかんともしがたく、特撮はジオラマとプラモデルにしか見えない。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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この海軍出身の僧侶監督に戦争を語られると何も云えなくなる処がある。「下士官上がりの僻み根性が(息子を特攻隊にして)息子の命を縮めてしもうた」と嘆く財津一郎。「死んで来い、これはもう命令を超えている」と特攻命令を自嘲する高橋幸治。「(三国同盟は)やむを得ないに始まって(大和突撃は)やむを得ないで終わるか」と及川古志郎海軍大臣・軍令部総長に嫌味を云う丹波哲郎(井上成美は及川を「三等大将・国賊」と貶したらしい)。これは犬死だ、責任者出てこいと呟くのを松林はここでも止めていない。

唯一、吉田満イズムみたいなものが覗くのは金田賢一の「俺は愛する人たちのために戦う。人に愛と犠牲がある限り、その民族は滅びない。だから大和の出撃は決して無駄ではない。これは犬死ではない」という独白であるが、全体のコンテクストからは一部意見に留めている(最近はこればっかだけど)。

史劇としてはスタッフに名前が見える児島襄の史観によるものなのだろう。それは山本五十六を中心とした海軍被害者説とでも云うべきもので、これにより本作の憾み節ドラマは成立している。しかしいつも思うのだが、山本にとってそんなに戦況不利が明らかなら、ミッドウェーで負けた時点でもう戦争やめましょうよと、どうして直訴してくれなかったのだろう。彼を悲劇の英雄視するのはどうかと思う。あと、真珠湾攻撃をルーズベルトの姦計とする俗説でもって宣戦布告なしの奇襲を正当化する、国際的にとても通用しない論法を採用するのは酷い。

配役は面白い。ミッドウェー敗戦の責任者である南雲に金子信雄、レイテにおける意味不明Uターンの栗田に安部徹を配して、思い切り馬鹿にしている。及川国賊総長を演じる藤田進は戦前の情報局映画で有名になった役者であり、残忍だが適役。

しかしこの史劇と、下級兵や小市民に寄り添ってこその松林節を両方押し込むのに、2時間半の尺はいかにも短すぎ、映画は残念ながら虻蜂取らずに終わっている。小沢艦隊の囮作戦を重点的に描写していて、「レイテ戦記」読んだことあるので個人的には興味深かったのだが、本来はここだけで一本必要だろう。

着陸方法を習っていないから突撃しますと云う遠藤公一の飛行少年兵に帰艦しろと怒鳴る長門裕之の件は情感溢れていてとてもいいし、息子の葬式でさめざめと泣く奈良岡朋子と、焼けた給水ハンドルを鬼の形相で回す財津には映画的な閃きと輝きがあるが、いいのはそのぐらい。森繁久彌古手川祐子も無駄遣いレベル。マグマ大使並の特撮は最低で東宝史上の汚点(多分明る過ぎるライティングが駄目なのだ)。谷村新司も酷い。

(評価:★3)

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