コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 大地のうた(1955/インド)

ヒンドゥー教の輪廻転生を美しく肯定しているように見えてしまうのがどうにも鬱陶しいのだが、それがための映画的強度は認めざるを得ない。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







デ・シーカに影響を受けて作られた作品であり、ネオリアリスモや日本50年代の貧乏映画にとても近い。頼りないお父さんの類型や頑是ない子供使い、音声を音楽だけにする詩的な表現など、よくある手法だろう。だから過大評価するつもりはないけど、それでもこれがインドで撮られたのは価値高いと思う。

ボリウッド全盛のインド国内から見ればこんなものは海外向けの映画で観るに堪えんと云った処に違いなく、本作のような国内の恥部をさらけ出す「欧化した」インド映画はほとんど見る機会に恵まれない(当方の探求不足のせいもあるだろうけど)。改善の意志欠如の反映と云っていいだろう。残念なことである。

私は個人的にはカースト制度を輪廻の理屈(真面目に勤め上げれば上位カーストに生まれ変われるという)で騙し騙し運用するヒンドゥー教は世界最低の宗教だと思っており、こんなものは断罪されるべきで、それには「欧化した」視点が欠かせないはずだ。本作はその意味でもっと評価されていい。本作ですら神羅万象の輪廻の肯定に見える処があるから厄介だけど。

素晴らしいのは途中で死んじゃう間借り人のお祖母さんの件(手元資料ではオブーのお父さんの親戚という設定らしいが、映画では語られない)。その強度は『ウンベルト・D』を超えているだろう。達観の歌を歌い、お母さんに受け入れられないと知って愛想笑いの表情を凍りつかせるショットが忘れ難い。これには加点せざるを得ない。

地域コミュニティなんてのは所詮こんなもんだぜとという酷薄があり、自分の老後を思って慄然とした。またも手元資料によると、このチュニバラ・デビという俳優、著名な舞台俳優だが、「撮影当時は阿片の錠剤を服用しながら生命をもたせていた」(品田雄吉)とのこと。しかし一体、そんな人使っていいのだろうか。このお婆さん、映画でも実際も、輪廻を信じて死んだのだろう。虚しいことであり、こんなものを美しいなどと社交辞令垂れる必要は全然ないと思う。

一方、後半に訪れる姉の死は、この前半との比較で平凡になってしまった。家が崩壊する嵐の描写などはイマイチ(資金不足なのだろう)。空き家にいる蛇は日本と共通するものがあるのが面白い。なお、お父さんはバラモンではなかろう。この前読んだM・ウェーバー「ヒンドゥー教と仏教」によれば、僧侶はカースト毎に存在したのであり、バラモンは下層階級の面倒など見ない。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)KEI[*] けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。