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[コメント] 日本誕生(1959/日)

新藤・大島らの左翼ポルノに対する東宝右翼ポルノの趣。両者を並べると当時の性愛映画の理想が見えてくるものがある。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作は興行収入1位の大ヒット作。冒頭の国産みのポルノ描写は、命じるのが左卜全という処からもの凄いが(彼は奥さんの興した新興宗教の唯一の信者だった)、変な特撮が大島『儀式』を想起させる。天の岩戸の件は柳家金語楼榎本健一らの喜劇であり、ポルノダンスを演じるのが乙羽信子という処からも、新藤の諸作と通底した世界観が浮かび上がる。

そこには別に「義務あっての権利」みたいな、自民党憲法改正試案みたいな説教はない。あるのはセックス肯定を通した「大らかな」現世賛美である。これは厭離穢土な仏教伝来以前の理想郷の回復を希求するもので、今でも神道の本を読むと必ず仏教の悪口が書いてあるが同じ発想、元祖は本居宣長。

王冠かぶったヤマトタケルの三船敏郎は狂人にしか見えないが、景行天皇の中村鴈治郎や敵役の東野英治郎がさらに狂ったコスチュームなので比較的影響がない。戦争に明け暮れる運命だった三船が理想とするのが、天の岩戸の喜劇世界だった、という本作オリジナルの理想こそが、八住利雄の云いたかったことなのだと納得させられる(説得はされないが)。

映画は撮影編集には才覚が感じられないが、美術や人海戦術は凄いことになっておりさすが東宝映画1,000本製作記念作品と唸らされる。ヤマタノオロチは青白い眼が素敵(殺陣はダサいが。なお、この竜は敵軍が怪獣に擬されたものだろう)。横っ腹から煙吹いている富士山とか、薄野の野火のイメージなどとても素晴らしい。三船にとって信頼できるのは敵の鶴田浩二だった、というイメージで後半を引っ張る作劇は面白い。滅ぼされる熊襲の面々も愉し気にダンスしているのが哀れを誘う。なお本作には『ドラえもん のび太の日本誕生』という続編もあるらしく、是非観たいものである。

(評価:★4)

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