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[コメント] 箱根風雲録(1952/日)

単純に愉しい土木工事映画。決闘における丘陵の傾斜の折り重なる変奏や、山場を彩るソ連直輸入の顔アップ連鎖など見処たっぷり。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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中村翫右衛門らの革命一派は物語に特に関係なく、彼等の件を全部カットして90分に纏めればずっといいものになったのは明らかだろう。ただ、山本薩夫が日本共産党員であることを鑑みれば、この蛇足は実に興味深い。1952年は武装闘争路線の日本共産党が選挙で大敗を喫した年だからだ(作品は3月公開、選挙は10月、路線放棄は1955年)。本作の巧くいかない革命は、山本の党内へのメッセージと解すれば、歴史の一頁としての重みが感じられる(ただ、コメントに書いた傾斜の変奏は捨てがたい魅力がある。『オン・ザ・ミルキー・ロード』の平板なばかりの丘陵など足元にも及ばない)。

本筋もそのような現実穏健路線。山村工作隊みたいなことは全然しない。序盤、お上に許されなかったのに工事が始まるのが説明が足りず妙な気がするが、途中でそういう話法なのだと気づかされる。開通の瞬間の喜びの爆発は実に愉しい。水が初めて流れるのを延々追うのが実に映画的で、映画の原初的衝動に寄り添っている。

明治初年に但馬ー丹後間にトンネルが開通したのだが、両方から掘られた接合面には相当な落差があり、通行人は梯子を使って上り下りしたという史実がある(京都府史より)。あんまりにもマヌケな話なので記憶に残っている。本作の工事の技術は普及していなかったのだろう。

全編にわたって飯田蝶子が効いている。この手の作品に彼女のような我が儘な脇役は欠かせませんなあ。獄舎で狼煙見ながら殺される河原崎長十郎今井正っぽい。なお、Wikiによれば深良(箱根)用水は小田原藩発注が史実、友野与右衛門も本作のような殺され方はしていないとのこと。ただし文献の引用がないので本当かどうかは不明。

(評価:★4)

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