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[コメント] 石中先生行状記(1950/日)

四囲のよしなしごとを綴る柔らかさが抜群で、炉端における飯田蝶子若山セツコの沢庵談義の目線の交換など絶品。短編連作として理想的な喜劇。
寒山

**ネタバレ注意**
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この前後、ナルセはもっぱら戦後時事難局映画ばかり撮っていた訳で、以降のニヒリズムを生んだ下地として重要な時期なんだろう。そんななか、本作の陽気な石坂イズムはとても異質。快活な娘さんに救われる世界を描いてヤルセナキオの正反対なのがとても面白い。この柔らかさは傑作『おかあさん』に繋がるものを感じる。

第1話の隠匿物資噺は木匠くみ子の陽気さに、第2話の仲たがいは杉葉子の「愛しています」に救われる。それぞれ一攫千金と風紀紊乱が主題であったはずだが、まあどうでもいいじゃないかと笑って忘れ去られ、明るい結婚の予感だけがほのぼのと残る辺りシェークスピア喜劇の王道の趣。

第3話に至っては特段風刺対象もなく、ただよい手相が出て陽気な若山セツコの二日間を追いかける。彼女の藁草に乗って旅する自由さや、忍従の美徳と正反対にある肯定的な饒舌は、石坂イズムを体現して正に名演、後の吉永小百合を予告しているだろう。彼女が三船敏郎に惹かれたのは母親の飯田が好きだからなのに違いないのだ、という微笑ましさがとてもいい。誰もが若山のファンになるだろう。吃音の三船の朴訥さも素晴らしい。類稀なる幸福感があった。

本作は『青い山脈』(前年製作)の傍流譚という体裁がある。杉と若山の登場がそうだし(池辺良藤原釜足もいる)、若山は映画館で同作の眼鏡かけた自分を眺め、三船と一緒に主題歌を歌う。つまり企画ものなんだろうが、東北の田舎に舞台を移して同じ石坂イズムを展開したことに本作の主張があるだろう。

私的ベストショットは木匠と堀雄二をふたり樹の上に残して地面に落ちるふたつの林檎。ナルセがこんなルノアールばりの愛らしいショットを撮るのかと驚いてしまった(第1話では木匠だけが方言に真面目に取り組んでいるのはなぜだったのだろう)。当の石中先生は登場するたびに無理矢理感がありやや目障り。警察の発行する処女証明書というギャグもとても石坂っぽい。

(評価:★5)

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