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[コメント] 不毛地帯(1976/日)

今更ですがラッキード社には大笑い。3時間飽きさせないテクはやっぱり立派なもの。悪役天国を批判する秋吉久美子はセーラー服で前掛けして台所でネギ刻み、関西弁なのでさらに呂律がおかしくてとても素敵だった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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山薩らしい悪役天国はここでも盛り上がる。山形勲の社長造形など流石だ。この馬鹿笑い、そして冒頭から株の売り買いで示す金儲けの才能をこっそり見せる。21世紀の邦画で山形や丹波は見当たらない。ゴロツキみたいなアメリカ駐在員の山本圭、防衛庁のスパイで女抱かされて有頂天で事務所で転倒する小松方正、負けと知って机の飛行機の模型をゴミ箱に捨てるライバル会社の田宮二郎、宇野重吉に引き続き出っ歯の総理高杉哲平、経企庁長官の大滝秀治は本作でブルーリボン助演男優賞取って名脇役と認知された。官房長小沢栄太郎は意外とまとも。藤村志保はいつも最高である。

仲代のソ連抑留(伐採作業に従事して転落したりしている)はソ連好きの監督が原作からずいぶん削除したらしく大した内容はない。仲代が前置きなく戦没者墓地に現れ、ブラッディ・ジャップとアメリカのお婆さんに批難される唐突さは、畳み込みの得意な山本薩夫らしい意外と前衛な断片。ストローブ=ユイレはナチ時代の軍人の復帰をリアルタイムで叩いているが、本邦でそれをやったのは山薩だ、という褒め方もアリかも知れない。

映画ではFX戦闘機は一機4〜5憶とある。騙されてエドワード空軍基地でのテスト飛行を見てF104はマッハ2、「俺は戦争に勝つことだけを学んできたんだ」「体内を流れている人殺しの血に怯えている」「テスト飛行をみて血が逆流した」と防衛大学校首席卒で元大本営作戦参謀の危険な奴仲代。しかしこの禍々しい性格は余り活かされず、友人丹波が官房長の小沢と対立して左遷させられそうになったから、彼との友情から立ち上がって詐欺に乗り出した、という動機は比較的刺戟がなかった。しかし、戦友の血と友情が全てに優先された、と捉えれば禍々しい事態である。

会社は伊藤忠商事。防衛庁と商社が会っていると判ると煩いからアメリカ。で、落札はどこです? ペラペラしゃべる丹波。決定権は国防会議、政治家たちが権謀術数のなか決定する。「実弾が総理に撃ちこまれたんやな」国防会議の正式決定前に総理にライバル社から決定含みのリベートが渡っているのを知って驚く仲代に大滝は云う。「アメリカ企業は日本政府をまだラテン諸国並にしか評価していない。だから政府決定など全然問題にしとらんのだ。単なる事後承諾のセレモニーぐらいにしか解釈していない」

井川比佐志の記事の握りつぶしの件は、新聞社が印刷工場予定地の国有地払下げの見返りとあり(井川は他紙に記事を回す)、電話一本でキャスターのクビ飛ばす昨今から見れば、マスコミは力があったのだと思わされる。債務負担行為で予算の数字空白のまま武器を爆買いしている現行政府に比べれば、厳しい目に囲まれた時代だった。アメリカの死の商人に税金が投じられている構造は何も変わっていない。

秋吉は仲代に問う。「新しい憲法で戦争は放棄したんでしょ。なんで軍隊があるの」。妻の八千草薫も民間就職を喜ぶ。仲代の暗躍が家族にも発覚した後半、秋吉は怒る。「いまは(防衛庁より)もっとひどい仕事なすっているわ」「この間の新安保成立のために政府が私たちに何をしたのかお忘れになったの」「二度と戦争はしたくない、してはいけないというのが国民の願いよ。だからみんな立ち上がったんじゃない、労働者も学生も」「それを政府な何をしたの。警官を国会へ入れたり、アメリカ大統領を呼んで力を借りようとしたり」「それだけじゃないわ、右翼と手を組んで、政府は民主主義を私たちの血で汚したうえに踏みにじったのよ」「新安保条約なんて私たち認めないわ。ジェット戦闘機なんて私たち誰もほしいなんて思っていないわ」「お父さんみたいな父親を持って、わたし、恥ずかしい」。秋吉に当時の国会周辺の映像などが二重写しされる。ジグザグデモは新左翼で共産党ではない、とか云うのは野暮だろう。時代の記録として貴重なものだった。そして仲代は事情聴取される。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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