コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] さくら隊散る(1988/日)

一般庶民を対象に実名でここまで踏み込んだ描写は許されないだろう。しかし俳優は表現者としてこれを引き受けるべきだと、鬼の新藤は記録映画と劇映画との差異を取っ払ってこの名優列伝を綴る。冷徹で見事な追悼。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







四名の最期が痛切極まりないのは、これが実名で示されたからでもあるだろう。列車に窓から飛び込み、被災していない人たちの間で廊下に横たわる件も言葉を失う。冷徹なリアリズムによる突き放しは『原爆の子』や『第五福竜丸』がメロウに見えるほどで、この名監督の達した境地は標高が高くて空気が薄く息苦しい。荻窪の自宅へと逃れた仲みどり、最後には彼女のホルマリン漬けの被災部位が示される。肉体の表出が俳優の仕事であるならば、これも見事な仕事だと新藤は讃えているように受け止められる。

冒頭の小沢栄太郎の挨拶(我々は被害者であり加害者であることを忘れてはならない)は本作の倫理観を担保している。広島は軍需基地であり、被爆者の一割が在日コリアンであった、という重要な側面の指摘だ。情報局演劇がどのようなものであったのか映画は具体的に示さないが、宇野重吉の情報局演劇参加に係る苦渋(赤紙とどう違ったのか)で圧縮して語られていることも見逃してはいけないだろう(宇野最後の映画出演とある。立派な発言だった)。

杉村春子丸山定夫へのコメントがとても知的で印象に残る。表出される感情が毎日違い、受け手も真剣勝負をさせられたこと。手の大きさが魅力だったこと。丸山と園井恵子の出演映画が残されたのは幸いなことだ。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。